筋肉、骨、腕。私はこれで記録が伸びた! 戸邉直人選手×山本凌雅選手×土井杏南選手(鼎談後編)

陸上選手は記録で全てを評価されると言っても、決して過言ではありません。だからこそ選手たちは日々改善を繰り返し、自らに最も適したスタイルを見いだすことに心血を注いでいます。調子が悪いときは、過去の自分と比べ、苦しむこともあると言います。その一方で、ちょっとしたきっかけにより、記録が大幅に伸びることもあるそうです。JALのアスリート社員である男子走高跳の戸邉直人選手、男子三段跳の山本凌雅選手、女子短距離の土井杏南選手による鼎談(ていだん)の後編では、記録が伸びたエピソードや、東京2020オリンピックへの思いについてなどを語ってもらいました。

山本凌雅選手、土井杏南選手、戸邉直人選手による鼎談は終始、和気あいあいとした雰囲気で進みました

筋肉で走らない、骨で走る!

これをしたことによって自分の記録がすごく伸びたというエピソードはありますか?

山本凌雅選手(以下、山本)
僕は上半身を鍛え始めて、40センチくらい記録が伸びましたね。それまでは体重を増やすのが怖かったので、なるべく増やさないようにしていたのですが、筋力トレーニングをしている先輩がいて、上半身に筋肉がついていた方が格好いいなと思って(笑)。3,4カ月くらいで4キロ増えたので、自分でもびっくりしていたのですが、そうしたら記録も伸びました。それがリオデジャネイロ2016オリンピックのシーズンです。試合でベスト記録が続きました。それからはずっとやっています。

土井杏南選手(以下、土井)
私は逆に筋肉というよりは骨を見ています。筋肉で走らない、骨で走る!

山本
どこの研究者ですか?

戸邉直人選手(以下、戸邉)
(笑)。

独特の表現で、記録が伸びたエピソードを語る土井選手

土井
筋肉を見るのではなくて、自分の骨格や骨盤の傾きを考えて、練習に取り組んだら、11秒6から11秒4になりました。要するに体のバランスなんですけれど、それを改善したらベストが出たんです。それが高校生のときです。高校時代は筋力トレーニングをしたことがなかったのですが、大学から取り入れたら逆に走りに結びつかず、けっこうフォームが崩れてしまったんですね。だから今はまず自分のバランスを考えて、うまく体を自分のものにすることを心掛けています。あれ、何で笑うの?

山本
いやいや、研究者だなと。

戸邉
すごいね。僕の場合は、昨年から今年にかけて踏み切り時の腕の振り方を変えたことで記録が伸びました。昨年は踏み切り時に両腕を同時に振っていたのが、今は片腕だけにしています。両腕を振って踏み切ると、力的には有利になるのですが、助走時にどこかで腕の動きを合わせないといけないんです。僕の場合は踏み切りの2歩前で1回両腕を同時に引いて、振り込むという動作をやっていました。ただ、そのときに体が少し浮いてしまい、踏み切りに向けては体の重心を下げていかないといけないのに、それに対してのロスが生まれていたんです。なんとか改善しようと思ってずっと取り組んでいたのですが、どうしてもうまくいかなかった。でも腕の振り方を変えてみたら、片腕で振り込むときには自然に踏み切りに向かって腕を振っていくことができるので、すごくしっくりきたという感じです。

国際大会に出ると競技観が広がる

競技人生におけるターニングポイントを教えてください。

山本
僕の場合は、ハードルが高かったおかげで三段跳に出会えたので、そこが一番大きかったですね。そうじゃなかったらハードルをやっていたと思います。

土井
私はロンドン2012オリンピックです。高校に入学してすぐ先生に「私はロンドンオリンピックに出たいです」と言いました。高校1年生であと1年しかなかったのに、今考えるとすごいことを言っていたなと思います。高校生ではインターハイが大きな大会としてあるのですが、先生がオリンピックを優先してくれて、他の仲間たちもみんな応援してくれた。私もオリンピックに出る気満々でずっとやっていました。そのときの女子短距離はリレーで日本記録を更新していたし、福島千里選手も日本記録を更新していたり、すごく波に乗っていたんです。その波に私も乗っただけでした。2020年に向けて違うのは、その波を今度は私が起こす番だということです。波に乗るのではなくて、自分が波を起こすという意味で、ロンドン2012オリンピックが私にとってのターニングポイントで、自分がオリンピックを目指すうえで一番大切にしていることです。

戸邉
僕は2010年にジュニアの世界大会に出場して、銅メダルを獲得することができたのですが、そこが一番のターニングポイントだと思っています。初めて国際大会でメダルを獲得できたのがこの大会だったので、そこから世界のトップを意識するようになりました。現在はヨーロッパに行って試合をすることが多いのですが、そういう競技生活のベースとなる考え方ができたのはその試合からだと思います。

国際大会を経験することで、競技観が広がると話す戸邉選手

国際大会を経験するとすごく変わるものですか?

戸邉
そうですね。全国大会も大きな試合ですけれど、同じ日本人同士です。国際大会になると、言葉が通じない外国の選手と試合をすることになりますし、新感覚というか自分の競技観も広がります。言葉は通じなくても競技を通じて交流することはできるので、自分の世界が競技を通じて広がっていくのを実感できる一番大きな瞬間だと思います。

土井
私もオリンピックに出て、うれしさがすごくあったのですが、勝負は全くできずに終わってしまいました。会場で100メートルのレースを見たときに、「同じ人間でこれだけ違うんだ」と。それでもすごく壁を感じたわけではなく「同じ人間なんだから私もできる」と思えたので、その舞台でもう一度個人として「その人たちと戦いたい」と意識が変わりましたね。

試合前に掃除をしたくなる!?

お互いに聞いてみたいことはありますか?

戸邉
休みの日は何している? 僕はずっと寝ている。

土井
同じです。めっちゃインドア。

山本
僕はずっと寝ているのが無理なんですよ。寝ていると時間を無駄にした感じがして、けっこうアクティブにしています。ゴルフの打ちっぱなしやバッティングセンターに行ったり、釣りやボーリングに行ったり、結局体を動かしちゃうんですけれど、そういうのが一番楽なんですよね。昼寝とかも好きじゃなくて......。

土井
私も。

山本
えっ、どっちなの?

土井
昼寝は好きじゃない。起きるのもけっこう早いかな。午前練習だと5時40~50分くらいに起きているから、普通に早いときには21時30分とかに寝る。そこから音信不通になり、午前練習のときは6時20分くらいにLINEをしたりするのであまり連絡がつかない感じ。

山本
基本的に連絡しても寝てるもんね。

土井
オフの日も目覚ましで起こされるのが嫌で、それよりも先に起きたいんだよね。目覚ましは予備で、起きてからはインターネットで動画を見てる。

オフの日もアクティブに過ごしているという山本選手

山本
戸邉さんは完全に寝ているんですか?

戸邉
睡眠をずっととっているわけじゃなく、テレビをなんとなくつけて、横になっている感じかな。

土井
試合前はどうしているんですか?

戸邉
試合前は本当に何もしない。

山本
僕は全然気にせず、動いていますよ。

土井
私は試合前に掃除をしたくなるんですよ。お風呂の排水溝とか。とにかくぴかぴかにして遠征に行きたいんです。そういうのはないですか?

戸邉・山本
(声をそろえて)ないです。

山本
掃除がめちゃくちゃ好きらしいですよ。

土井
そう、掃除が趣味なんです。

戸邉
へぇ、でも試合前にやること?

土井
帰ってきたときにきれいだとホッとするのと、行くときに「よしっ」と思えます。

山本
言いたいことは分かる。

土井
だから断捨離とかもめっちゃ好き。

山本
へぇ、そうなんだ。でもあんまり捨てられないんじゃないの?

土井
この間も試合の前日に断捨離したもん。洋服とかね。

東京2020オリンピックは競技者としての集大成に

戸邉選手と山本選手は、オリンピックに対してどのような思いを持っていますか?

戸邉
僕はリオデジャネイロ2016オリンピックの年の春先にケガをしてしまって、出場権を取ることができませんでした。シーズンに入る前はオリンピックに出場して、本番でどこまでいけるのか、ということしか考えていなかったので、まさか自分が出られないとは思っていなかったんです。そういう意味で、今回は東京で行われる特別感もあるし、オリンピックへの思いは人一倍強いと思っています。そこで良い結果を残したいですし、来年は28歳になるので、競技者として一番良い年齢になってきます。競技人生の集大成として迎えられるようにしたいなと思っています。

山本
僕も東京だからなおさら思いは強いです。それまではオリンピックに「出たいな」というくらいでしたが、東京開催が決まってからは、周りもこれまで以上に応援してくれているのを感じます。「出場しないといけないな」という思いが強くなっています。

今季の目標と、東京2020オリンピックの目標を教えてください。

山本
できればシーズンの早いうちに日本記録くらいを跳びたいです。そうしたら続く試合を良い条件、モチベーションで入っていけます。今季、良いイメージで試合を重ねていければ、東京2020オリンピックでも入賞やメダルに絡めるレベルまでいけるんじゃないかと思います。2017年のユニバーシアードで僕は銅メダルだったのですが、金メダルと銀メダルの選手は今、世界ランキングで上位にいます。僕だけすごく置いていかれているので、そういうのも刺激になって、追いつきたいという気持ちもありますし、今季は日本記録を意地でも跳びたいと思っています。

土井
今季は単純に(世界大会の参加標準記録である)11秒24という数字を出すというのが目標であり、それが世界への通過点になります。その先に必ずオリンピックはつながっていますし、今年が勝負の年だと思っています。なおかつ東京2020オリンピックは参加標準記録が11秒15ということなので、かなりハイレベルな争いになると思います。実際にそのタイムを出さないと勝負ができないので、まずは今季11秒24という数字をターゲットに置き、来年につなげていきたいと思っています。

戸邉
来年の東京2020オリンピックでは2メートル40センチという高さを跳ぶことができれば金メダルを取れると思うので、そこを目標にやっていきたいです。そのために10月の世界大会でメダルを取りたいですし、記録的には2メートル37もしくは38センチくらいを目指したいと思っています。

(この項、了)

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