「勝たなければ意味がない、これは宿命。」空手女子組手・植草歩選手インタビュー

「空手界にまた1つ伝説を作りたい」。植草歩選手(JAL所属)は東京2020オリンピックに向けた決意をそう語ります。女子組手の選手として、空手道の全日本大会で史上初の4連覇を達成。2016年には世界大会でも頂点に立ちました。その輝かしい経歴は植草選手の強さを際立たせるものとなっています。東京2020大会での金メダル獲得へ、自身に寄せられる期待を肌で感じているのでしょう。インタビューでは言葉の端々から日本の空手界を牽引するプライドが滲み出ていました。

「空手界にまた1つ伝説を作りたい」と東京2020オリンピックへの決意を語った植草選手

駆け引きの重要性 意識が変わった高校時代

昨年12月に全日本大会で4連覇を飾りました。優勝まで相手に1ポイントも奪われない圧巻の戦いぶりでしたが、結果を受けてどう感じていますか?

狙い通りに勝ち取った優勝でしたし、4連覇は女子組手では史上初だったので、うれしく思っています。無失点は終わってみたらそういう結果になったというだけです。この大会は勝つことより、どういう空手をしていくかを考えていて、それができたからこそ無失点の勝利につながったと思っています。

具体的にどのような空手をしていこうと考えていたのですか?

(昨年11月の)世界大会では決勝で負けてしまったのですが、そのときはただ勝ちにこだわる空手になっていたんです。相手と雑に勝負していた部分があったので、その後は攻撃の仕方や体の使い方など細かいところまで基礎に立ち返って取り組んできました。そこにフォーカスして試合をしたら、無失点と4連覇という結果につながりました。

駆け引きを重要視しているという植草選手。それがなければ今みたいに勝てていなかったとも

攻撃についてですが、植草選手の武器は中段突きです。この技は昔から得意だったのですか?

もともとはすごく苦手でした。逆に中段突きでポイントを取られていたくらいです。ただ、高校生になってからは「中段を突けないと勝てないよ」と言われて、毎日ずっと練習をしていました。苦手なことこそやらなければいけないと思っていましたし、海外の試合に出ると大きな選手と戦わなければいけない。そこでよく決まるようになって、「このタイミングだったら入るんだ」と分かりました。それからは得意になりましたね。

駆け引きもすごく重要になりますね。

自分は特に駆け引きを重要視していますし、それがなければ今みたいに勝てていなかったと思います。昔は無心になったら勝てると思っていたのですが、高校の先生に「コンディションが良くないときに体が反応しなかったらどうするんだ」と問われて、それに答えられなかった。その時々の環境や物事は変えられないけれど、自分のことはコントロールできる。「相手の動きに合わせた駆け引きが重要だ」ということを教えてもらって意識が変わりました。そして経験を積むことによって予測もうまくなってきたし、相手の動きを読めるようになって今があるんだと思います。

ゾーンに入ると頭の中で次の動きが閃く

「ゾーンに入ると次の動きが頭の中で閃く」と植草選手は言います

植草選手がこれまで空手をやってきて、一番うれしかったことは何でしょうか?

2015年に初めて全日本大会で優勝したことがすごくうれしかったですね。東京2020オリンピックの競技に空手が加わるかもしれないということで、ちょうど自分が注目され始めていた時期でした。ただこれまで全日本大会ではなかなか勝てなくて......。メディアに注目されているから練習ができず弱くなったとは絶対に言われたくなかった。そういうときに初めて優勝できたので、期待に応えられたという思いでした。あと、そのときはゾーンに入っていたので、何をしても勝てる自信があったんです。相手に逆転されたりもしたのですが、何をしたらいいか次から次へと頭の中で閃いたので、あの大会はすごく楽しかったというのを覚えています。

ゾーンに入るという経験はこれまでもあったのですか?

その大会が競技人生で2度目くらいだったように思います。最近では2017年の全日本大会です。準決勝は残り1秒の段階で齊藤綾夏選手に1-2と負けていたのですが、試合が止まって歩きながら開始線に戻るまでがすごくスローに思えて、次に何をするかというのがすべて頭によぎったんです。相手の蹴りを抑えながら自分が蹴り、審判が旗を上げて、観客席が盛り上がるというところまでイメージできた。実際その通りになって、「何だ、この感覚は?」と思いました。普通、残り1秒だったら「もう無理だ」と諦めたと思うし、普段は後ろ足で蹴ったり、上段回し蹴りなんてしないのですが、なんかやってしまって(笑)。あれは今までで一番気持ちが良いゾーンの入り方でしたね(残り1秒で上段回し蹴りを決め、4-2で勝利)。

その後、そうした感覚は?

まだ来ていないですね。どうしたらなるのか自分でも分からないんです。ただ、閃くときはすごく自分に余裕があって、楽しんでいるときだと思うので、そこは大事にしています。

逆に一番悔しかったことは何ですか?

(昨年11月の)世界大会で準優勝に終わったことが人生で一番悔しかったです。今まで自分がやってきたことはすべて間違っていたのではないかと思ったくらいです。でも間違っているわけはないし、間違っていたと思いたくない自分もいました。普段は負けた試合の映像を絶対に見ないのですが、「ちゃんと見て、自分を見つめ直せ」とコーチに言われたので見たら、涙が止まらなくなってしまい......。そこで見つけたのが、勝つことに焦っていた自分です。相手をコントロールして空手をするという自分の良さを忘れていて、本来の空手をできていなかった。それを見つけ出せたのは良かったですし、とにかく基礎に立ち返ろうと思いました。

強さと比例する人間力、意識する言葉の語尾

アスリートとしての自分はどういう選手だと思いますか?

明るい選手だと思っています。昔はネガティブだったのですが、強くなるにつれてどんどん自信もついてきましたし、言葉の力は大きいものだと実感しているので、言葉を大切にしようと思って過ごしていたらポジティブになりました。加えて、人間力を上げようと思っているので、チャンピオンらしい性格になり、チャンピオンとしての行動をとろうと思ったら、以前よりはしっかりとしてきました。

人間力を高めるというのはすごく難しいことだと思います。何か心掛けていることはありますか?

日々生活していたら小さな出来事に苛立つことはあるじゃないですか。その苛立ったことに対して私は自己嫌悪に陥ってしまうんですね。「あー、悪い自分になった、意地悪な自分が出てしまった」と。なので苛立つことがあったとき、ひとつ良いことをしようと心掛けています。そうしたら心に余裕ができたし、言葉も変わってきた。人間的な部分も変わっていき、それが強さと比例していったので、そういうことは大事だなと思っています。

「言葉を大切にしよう」とおっしゃっていましたが、何か大切にしている言葉はあるのですか?

大事にしているのは語尾ですね。子供なんかは「勝てるかな」と言うじゃないですか。その時点で勝てないんです。「勝てる」「勝つ」と言ったほうがいい。「できるかな」と言うのではなく、「『できる』と3回言ってごらん、できるようになるから」と言ったらできたりする。ネガティブなことを発信していたらそういう雰囲気になってしまうので、語尾や発する言葉には気をつけるようにしています。

「空手界にまた1つ伝説を作りたい」

2018年は「改革」というテーマを掲げていました。2019年はどういうテーマにしようと考えていますか?

「歩み」です。2018年は改革をしようとして、多くのことに目がいってしまい、すごくぶれたんです。でも今までやってきた自分は間違っていなかったと思いますし、目の前に見えている課題を1つ1つクリアしていくことが、大きな糧になると思うので、2019年は「歩み」でいきたいと思っています。

アスリートとして新しい挑戦も必要だと思いますが、いろいろなことに手を出すよりも......。

1つ1つの課題をクリアしていくことで、次の課題にも取り組んでいける。2018年は蹴りもやりたい、投げもやりたいといろいろなことに手を出しすぎて、技の正確性が低くなり、自分の強みを出せなくなってしまった。自分が持っている技術力の高さをそのまま維持して、他の部分も並行して力をつけたらもっと強くなれるというのを2018年の負けで気づいたので、今は改善して強くなる自分が楽しみで仕方がないです。

実際にどういう部分を高めようと考えていますか?

相手をコントロールして勝つことです。自分が相手に合わせることもそうだし、相手を動かして自分が蹴り技を入れるなど、相手をコントロールすることはどんなことにもつながってくる。それは自分にしかできないことですし、そこを高めていきたいと思います。

日本開催のオリンピックで、日本の伝統武道でもある空手を披露できることについてどう感じますか?

空手は日本発祥の競技なので、それを武道の聖地である日本武道館で披露できるのは本当に幸せなことです。ここで私が勝たなければ意味がないと思いますし、これは宿命だと思っています。運命と感じられることはそんなに多くない。初の競技を日本でできる。そこで初代女王になって、空手界にまた1つ伝説を作りたいと思っています。

2019年のテーマは「歩み」。課題を1つ1つクリアしていくことが大きな糧になると考えているようです

「私が勝たなければ意味がないと思いますし、これは宿命だと思っています」。植草選手はこう語ることで自らを奮い立たせると同時に、この巡り合わせに感謝を示しているようでした。新たに加わった競技で、自身初のオリンピックを慣れ親しんだ地で戦う。こうした機会はなかなか訪れません。強くなるため、そして勝つために植草選手は日々、試行錯誤を続けています。2020年、その成果を存分に発揮できることを期待したいです。

植草 歩(うえくさ あゆみ)JAL所属
1992年、千葉県生まれ。組手、女子68㎏超級。16年空手道の世界大会優勝、17〜18年KARATE1プレミアリーグ年間チャンピオン、15〜18年全日本大会4連覇。現在、WKF世界ランキング第1位。

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