東京2020公式アートポスターインタビュー 森千裕さん 都市と体のエネルギー、躍動感や風を描いて

メイン候補1★190714_S001_0213 Mori Chihiro

アートポスターは、近年のオリンピック・パラリンピックにおいて欠かすことのできない存在になっています。東京2020大会でも、国際的に活躍するアーティストやデザイナーに文化的・芸術的レガシーとなる独創的なポスターを制作していただきました。美術家の森千裕さんはパラリンピックのポスターとして、都市と体のもつエネルギーが交錯する瞬間の躍動感や風をカラフルに描きました。森さんが作品に込めた思いとは。

作品のコンセプト

アートポスターを制作することになったときの感想は。

アートポスターのお話をいただく前から、よくスポーツやオリンピックをモチーフとした作品を描いていました。小学校の頃には、古代オリンピックに興味を持ち、自由研究でオリンピアの祭典を特集した新聞を作った記憶があります。また、自分が生まれる前の東京1964オリンピックというものに強く惹かれ、閉会式をテーマにした大作絵画も制作したことがあります。自分が見られなかった大会だからということもあるかもしれませんが、記録写真や記録映像に興味があり、古本屋で見つけるたびに関連本を資料として買い集めています。東京1964オリンピックポスターもとても好きだったので、自分がオリンピック・パラリンピックポスターを制作することになって、すごくうれしかったですし、感慨深かったです。

タイトル「カーブの向う(五千輪)」にはどんな思いを込められたのでしょうか。

作品のタイトルは、感覚的につけることが多いです。説明的なタイトルをつけてイメージを限定するのではなく、作品を見た人が自由に感じてもらえればと思っています。

「カーブ」という言葉でいくつかイメージできると考えたことを挙げると、一つは東京という大都市の中にある高速道路のジャンクションなど、都市の中の曲線としてのカーブ。もう一つは陸上競技のコースのカーブ。私は走るのが好きで、特にカーブを曲がって走るときの感覚がすごく好きです。そして紆余曲折のカーブ。自分にも紆余曲折がありますし、紆余曲折のない人なんていないんじゃないかと思います。カーブの向うは見えていなくて、そこには希望があるかもしれないし、もしかしたら何もないかもしれない。だけどとにかく走っていく。そういったことを見る人がいろいろイメージできるように、「カーブの向う」とつけました。

制作のこだわり

どのように制作されたのですか。

先にテーマを提示されて描くことがほとんどないので、かなり悩みました。お話をいただいたのが妊娠6カ月ぐらいのときで、少しタイトだったのですが、けっこうギリギリまで何を描くか考えましたね。パラリンピックということで、肉体のエネルギーなどを抽象的に表現しようと思いました。

実は、出産当日まで描いていたんです。入院の前日に描いていたらどんどん夜が深まり、朝方になって、「病院に行かなくちゃ」と。お腹も大きく重かったので、四つ這いの姿勢で描いていましたね。

このポスターはお子さまとともに生まれたんですね。

そうですね。自分の中で思い出になりました。不思議なんですけど、赤ちゃんも覚えているみたいで。ポスターを見て「ママ」と言い出したんです。赤ちゃんの神秘ですね。

アクリル(編注:水彩絵具と同じように水に溶いて使う絵具)で描かれた理由を教えてください。

普段から一つの絵の具で描き続けるのではなく、毎回、技法を問うことから始めます。イメージが頭に浮かんで、その印象にぴったり合う描き方を模索します。そうしているうちに、自分の作品の中にいくつかの「シリーズ」が生まれたのですが、これはカラフルでマットなシリーズです。エネルギー、風、夏などをイメージしたので、パーンとした色を出すためにアクリルを選びました。

森さんの創作の源は何でしょうか。

なぜそんなに惹かれるのかわからないこと、自分の内側から来る生理的な関心には、忠実であるように意識していて、そういうものに関してはアグレッシブな視点で見ていますし、衝動を自分の中に落とし込むようにしています。一瞬の感覚とか記憶とか見間違いなども、逃さないように観察をしていますね。もう一つは、いろんな人とコミュニケーションを取りたいという気持ちが強くあるんですが、それは叶わないと諦めている部分があります。世代も違えば、環境も違って、それぞれの事情や時間を考えると、誰とでも話し込めるような状況はなかなかない。自分はコミュニケーションが得意な方ではないので、誤解を生むこともあります。

例えば何かがわからないものが落ちていて、「なんだろう」と一瞬、無意識に関心を持ったりする瞬間って誰にでもあると思うんです。でも、それについて特に話したりしないですよね。ぱっと目に入ったパンの形が気になる。テレビで見た一瞬の感じが気になる。でも、形に残さずに通り過ぎていってしまう。それが自分の中で切ないと感じることがあって。それを表現できるのは、自分にとっては制作しかなくて、作品を提示して、それを見てもらうこと。会話以外でコミュニケーションを取る方法として、作品を作ることしか見つからなかったんです。

スポーツへの思い

スポーツの経験は?

バスケットボールと水泳をやっていました。長くやっていたのはバスケットボールで、小学校と中学校、大学でも少しやっていましたね。水泳はスイミングスクールの競泳コースに通っていて、あるとき、スクールに金メダリストのマット・ビオンディさん(ロサンゼルス1984、ソウル1998、バルセロナ1992大会で計8個の金メダルを獲得)が来てくれたんです。選手コースの子どもと一人ずつ、一緒に泳いでくれました。マット・ビオンディさんが泳ぐと大きな波が起こって、25mがあっという間でした。大きな波に乗るような気持ちのよい感覚と、本物の迫力を間近で感じたことを今でもとてもよく覚えています。

スポーツとアート、どちらもお好きなんですね。

そうですね。1年で一番楽しみだったのが体育大会っていうくらい、運動をするのが大好きで、絵を描くのと同じぐらい好きでした。でも、水泳を習っていたときに感じたのは、やはり限界があるなと。スポーツ選手になれるのはほんの一握りだと思うんですけど、自分の体力と才能に、底のようなものを感じました。その反面、絵を描くときは、底がないというか、自由に描くことができる。だから絵を選びました。

どんなスポーツに興味がありますか。

オリンピックを観戦するときは、水泳、体操、フィギュアスケートなどをよく観ます。制作のモチーフとして興味があるのは、野球、アメリカンフットボール、ホッケー、空手、テニス、体操、剣道などです。あと、NBAをよく見ていて、それがバスケットボールを始めるきっかけだったんですが、ルールやゲームの内容というよりは、選手の体の動きやラインの美しさや格好良さ、シュートが気持ち良くどんどん入ること、会場の雰囲気やチームのロゴがオシャレだなということに夢中になって観ていました。NBAを最近になって実際に観に行ったりもしました。体操選手やフィギュア選手も体の動きや形の美しさに惹かれますね。パラリンピックの選手は肉体の躍動感がすごい。ぶつかりあいなど、とても印象的ですね。

東京2020公式アートポスターインタビュー 森千裕さん
01:29

東京2020公式アートポスターインタビュー

野老朝雄さん 手で描き上げたもう一つのエンブレム

金澤翔子さん 東京から世界へ、元気に「翔」び立って

GOO CHOKI PAR 困難を乗り越える人の姿は美しく、カッコいい