矢が真ん中に当たらないから楽しい 重定知佳がハマった競技の魅力

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パラスポーツは、1度見たらきっとハマる! オリンピック競技と異なる見どころも多く、注目度は年々増している。選手が考える競技の魅力とは? やっていて楽しいと感じるときは? アーチェリーの女子個人リカーブオープンで東京2020パラリンピック出場を内定させている重定知佳は、かつて車いすテニスで国内ランキング上位につける選手だった。そんな彼女がなぜアーチェリーに心奪われ、「ハマった」のか。

最初は軽い弓を使い、5mほどの距離からスタート

パラアーチェリーは、的の大きさや距離などオリンピックとほぼ同じルールで行われ、障がいの内容や程度によって補助用具の使用が認められている。競技種目は「リカーブオープン」と「コンパウンドオープン」、「W1」(四肢に障がいがあり、車いすを使用するW1クラスの選手限定)の3つに大別され、全部門で男女別の個人戦と、男女各1名による混合戦が実施される。

重定が出場するリカーブは、70m先にある直径122cmの的を狙う種目だ。中心に当たれば10点で、そこから外側にずれていくごとに点数が低くなる。

1982年生まれの重定がアーチェリーに出会ったのは32歳のとき。中学2年生のときに両足がまひする難病が発覚し、その後、歩行が困難になってからは、車いすテニスを10年以上プレーした。第一線から退いたあと、2年ほどスポーツは全くやらなかったが、「刺激がほしくなり、個人で練習すれば点数が伸びる競技を探していた」ところに、自宅近くの体育館でアーチェリーが行われていることを知った。

「最初は初心者用の軽い弓を使って、距離も5mくらいのところからスタートしました。矢が放たれたときの爽快感が心地良くて、的の真ん中に当たることもうれしかったですね」

アーチェリーに出会ったのは32歳のとき。矢が放たれたときの爽快感が心地良かったと語る
アーチェリーに出会ったのは32歳のとき。矢が放たれたときの爽快感が心地良かったと語る

再現性を高めるため、同じことをやり続ける

もちろん距離を離していけば、的の中心に当てることは難しくなってくる。最初の壁は20mだったそうで、それをクリアしてからは徐々に距離を伸ばしていった。70mの試合に出場するようになったのは競技を本格的に始めて1年後のことだ。

的の中心に当てるには、まずフォームをしっかり固めることが重要だという。パラリンピックでは予選で72本の矢を射ち、合計得点によりランキングが決まる。その後のトーナメントも5セットマッチで行われるため、何度も弓を引く必要がある。そこで求められるのが「再現性の高さ」だ。

「毎回違うフォームで射っていたら、矢が真っ直ぐ飛んでいかないし、的の中心にも寄っていきません。フォームの再現性を高めるために、何年も同じことをやり続けているので、年々その質を上げるようにしています。左手を押し手、右手を引き手と言うのですが、押し手がいつもと違う動きをすると、引き手も連動しておかしくなり、それがそのまま点数に出てしまうときもあります」

重定は1日平均6時間ほどを練習に費やす。本数にして250~300本は射っており、それを繰り返すことでフォームが形成されていくという。

フォームの再現性を高めるために、1日平均6時間ほどを練習に費やす
フォームの再現性を高めるために、1日平均6時間ほどを練習に費やす

状況を読むために必要な「引き出し」

またフォームと同様に重要なのが、天候を読むこと。アーチェリーは屋外競技で、風や雨によって矢の軌道が変わってくるため、それを計算しながら弓を引く必要がある。

「例えば風が左から右に吹いている場合、ただ真ん中を狙うと、右に流れていってしまうんですね。雨は上から降っているので、矢が下に落ちてしまう。そういうことを計算して、あえて中心より左や上を狙ったりしていく必要があるんです。射った瞬間に風がやむこともあれば、吹き始めたり、強くなったり弱くなったりする。それを読むのは難しいです」

この「計算」という言葉は、個々の感覚や慣れと言い換えることができる。競技経験を重ねていくほど、その精度は上がっていくが、まだアーチェリーを始めて6年ほどしかたっていない重定は「引き出しが少ない」と話す。

「選手はみんな、こういう風が吹いたらこうしようという引き出しを持っています。ただ、私は32歳から始めているので、経験値が少ないんです。今、私を指導してくださっている末武寛基コーチは状況を読むのがうまいので、足りない部分を補ってもらいつつ、知識として自分の中に植え込んでいっています」

風や雨によって矢の軌道が変わるため、天候を読むことが勝敗の行方を左右する
風や雨によって矢の軌道が変わるため、天候を読むことが勝敗の行方を左右する

試合に負けるときは、自分に負けたとき

毎日ひたすら同じフォームで矢を射ち続け、試合では天候を計算しながら、その成果を発揮する。相手だけではなく、自分自身とも戦い続けるのがアーチェリーという競技の特徴の1つだ。

「試合に負けるときは、自分に負けたときです。私には『いつも通りの自分が出せれば大丈夫』という思いがあって、そのいつも通りが狂い始めると『あれ?』となる。本当に毎回、自分との戦いです」

日々、長い時間を費やす練習は厳しいもので、重定自身も「鍛錬ですね」と笑う。そのぶん試合で実力を出し切ったときは、「またこの気持ちを味わいたいから、練習を頑張ろうと思える」という。重定は競技にハマった理由をこう語る。

「矢が真ん中に当たらないから楽しいと思うんです。ただ、フォームが一定になり、再現性が出てくると、点数は伸びてくる。自分が頑張れば、頑張ったぶんだけ点数に反映される。真ん中に当たらないのをどうにかして当てるのが楽しくて、ここまで続けてこられたんだと思います」

東京2020パラリンピックでの目標は金メダル。「人生を懸けてやってきたので、てっぺんに立ちたい」と力を込める重定は、的の中心の先に見える自身の姿をはっきりと描いている。

One Minute, One Sport パラアーチェリー
01:18

パラアーチェリーのルールや見どころを1分間の手書きアニメーション動画でご紹介します。アーチェリーに詳しい人も、そうでない人も、まずは動画をチェック!

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