標的は0.5ミリ「感覚ない」左指で引き金を引く 水田光夏がハマった競技の魅力

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パラスポーツは、1度見たらきっとハマる! オリンピック競技と異なる見どころも多く、注目度は年々増している。選手が考える競技の魅力とは? やっていて楽しいと感じるときは? 射撃の10mエアライフル伏射(ふくしゃ)SH2クラスで、東京2020パラリンピック出場を内定させている23歳の水田光夏は、19歳から本格的に競技を始めた。そんな彼女がなぜ射撃に心奪われ、「ハマった」のか。

田口亜希さんの講演を聞き、射撃に興味を持つ

肢体不自由の選手を対象に実施されるパラ射撃は、ライフルやピストルで遠方に固定された円状の的を撃ち、その正確性を競う。制限時間内に規定弾数の射撃を連続して行い、撃ち抜いた位置によって与えられる点数の合計得点で勝敗が決まる競技だ。的には10個の同心円が書かれており、水田が取り組む10mエアライフルの中心の円は直径で0.5ミリしかない。それに当たると、最高得点の10.9点となり、そこから0.25ミリずれるごとに0.1点ずつ減点されていく。

中学2年生のときに「シャルコー・マリー・トゥース病」という、末梢神経の異常によって四肢の感覚や筋力が徐々に低下していく進行性の難病にかかった水田は、上肢(右ひじから先、左手の指先)と下肢(両ひざより下)がまひしている。射撃姿勢は、伏せて構える「伏射」で、上肢で銃を保持できないため支持スタンドを使用するSH2クラスに属する。

射撃との出会いは17歳のとき。日本パラリンピアンズ協会の会合に参加した水田は、そこで田口亜希さん(射撃でアテネ2004から3大会連続パラリンピック出場)の講演を聞き、競技に興味を持った。最初はビームライフル(射撃競技用の光線銃)で練習を積み、エアライフルの所持許可が下りた19歳から、競技を始めた。

17歳のときに射撃と出会い、19歳から競技を始めた
17歳のときに射撃と出会い、19歳から競技を始めた
桜美林大学

中心を撃ち抜くための大事な要素

10m先にある直径0.5ミリの的の中心を撃ち抜くのは、至難の業だ。どういう技術が必要になってくるのか。「射撃には大事な要素が4つある」と、水田は説明する。

「まず『据銃(きょじゅう)』と言って、銃を構えたとき、脱力した状態で、動かず安定した姿勢を作ること。次に『照準』で、ライフルに付いている照準器をのぞいたとき、的の中心に銃が向いているかどうかを確認します。続いては『撃発』で、銃が動かないように丁寧にゆっくりと引くようにします。最後の『フォロースルー』は、弾が銃身を抜けていって、的に当たるまで0コンマ何秒か時間があるので、そこで動かずしっかりと止まること。この4つができていればだいたい当たります」

中でも、中心に当てる最も大事な要素は「照準」だ。照準器には拡大レンズが付いておらず、のぞいても的が大きく見えるわけではない。照準器と的の中心、さらに全体の同心円を見ながら「ここが真ん中だろう」と判断していくため、その正確性が求められる。

中心の的は0.5ミリ。そこを撃ち抜くのは至難の業だ
中心の的は0.5ミリ。そこを撃ち抜くのは至難の業だ

鏡を置いて、視覚的に指の動きを確かめる

10mエアライフルの本選では60分で60発を撃ち、合計得点の上位8人がファイナルに進出する。高得点をマークするには、長時間戦う集中力や、繰り返し同じフォームで撃つ再現性の高さが必要になってくる。

「ただ、私は60分間ずっと集中し続けるのは無理なんです。だから1発1発撃つ瞬間だけ集中して、そのほかの時間は射撃と関係ないことを考えています。練習でも60分間60発、同じことを繰り返していると、自然と自分のリズムができてきます。それもあり、この一瞬だけに集中することができるようになってきました」

引き金を引く左手の指には、ほぼ感覚がない。それを補うため、水田は練習時に引き金の部分が見えるように鏡を置いて、視覚的に指の動きを把握するように努めた。1年半ほどそれを続けたことで、「触った感覚はなくても、指をどれくらい動かせばいいかが分かり、今は不安なく撃てています」と語る。

引き金を引く左手の指はほぼ感覚がないため、視覚的に指の動きを把握するように努めた
引き金を引く左手の指はほぼ感覚がないため、視覚的に指の動きを把握するように努めた

射撃は自分自身と向き合う競技

銃を撃つときに、少し呼吸をするだけでも、弾道は大きくずれていく。的の中心に当てるのは難易度が高い。ただ、その難しさこそ水田が射撃にハマった理由にもなっている。

「最初に始めたビームライフルでは、途中から中心に当たることが普通になっていました。でもエアライフルをやってみると、それほど当たらないんです。失敗したときは原因がたくさんあり、どこか1カ所を直せばすぐに当たるというものでもない。1つずつ原因を見つけ、改善していくことで、次の1発がしっかりと撃てる。簡単にできないからこそ、もっと練習して当て続けるようになりたいと思い、いつの間にかこの競技に魅了されていったんだと思います」

「射撃は自分自身と向き合う競技」だと、水田は言う。競技中は横一列に並んだ選手たちが一斉に撃つため、他の選手の得点は分からない。ただ、ひたすら同じ動作を繰り返し、高得点を目指していく。自らのリズムで撃ち続けるには、ミスがあっても動揺せず、次の1発に集中しなければならない。技術面はもちろん、メンタル面においても確たる自分を持つことが必要なのだ。

東京2020パラリンピックでの目標は「自己ベストの更新」。現在633.3点の記録を持つ水田は、常に今の自分を超えるため、これからも己と向き合い続けていく。

One Minute, One Sport パラ射撃
01:23

パラ射撃のルールや見どころを1分間の手書きアニメーション動画でご紹介します。射撃に詳しい人も、そうでない人も、まずは動画をチェック!

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