仲間とともに、スピード求め限界まで漕ぐ 川本翔大がハマった競技の魅力

パラスポーツは、1度見たらきっとハマる! オリンピックの競技とは異なる見どころが多く注目度も年々増している。選手が考える競技の魅力とは? やっていて楽しいと感じるときは? 片足のパラサイクリングレーサー、24歳の川本翔大はトラックC2クラスで世界ランキング4位(2020年12月現在)、東京2020大会でメダル獲得が期待される若手だ。そんな彼がなぜ自転車競技に心奪われ、「ハマった」のか。

スピードとコーナリングのカッコよさ

風を切って走る自転車。パラサイクリングにはそんなイメージのように自然を感じながら屋外の道を走る「ロード」と、すり鉢状の傾斜がついた屋内の専用競技場で行われる「トラック」がある。ロードでは時速40km後半、天候の影響を受けないトラックでは50~60km出ることもあるという。

「スピードは自転車の面白いところですね。片足の選手でもタイムトライアル種目では誰よりも速く走れることもありますし、何十人もがまとまって走るロードは下りのスピード感、スピードが出たまま大人数でコーナーをぐーっと曲がっていくところはすごく迫力があります。見ていてカッコいいと思います」。そう言って川本は目を輝かせた。

時速50~60km出ることもある「トラック」。コーナリングも見どころ
時速50~60km出ることもある「トラック」。コーナリングも見どころ
(c) JPCF

保育園で初めて自転車に

川本が初めて自転車に乗ったのは、保育園に入ったばかりのころだという。「自転車に乗りたい」と頼んで買ってもらい、両親や近所の人に教わりながら練習を始めた。病気のために生後2カ月で左足を切断した川本は、右足だけでペダルを漕ぐ。紐で足をペダルと結ぶなどの試行錯誤を繰り返し、片足で漕ぐ感覚を養ったそうだ。

「歳を重ねるにつれて紐で結ばなくても漕げるようになりました。学校や遊びに行くときはいつもママチャリに乗っていましたね。(片足だけで)歩くのはちょっときつかったので、自転車にまたがり足で蹴って、キックボードみたいな感じで歩いていました。常に自転車と一緒でした」

野球、そしてパラサイクリングへ

幼いころから自転車に慣れ親しんできたが、そのまま自転車競技に進んだかというと、実はそうではない。広島県立上下(じょうげ)高等学校で入ったのは野球部だった。松葉づえでグラウンドを駆け回っていたが、義足を作ることになり、身体障がい者野球のメンバーと出会ったことから、2年生で転向を決意。すぐに頭角を現した川本は、日本代表にも選ばれた。

自転車競技に出会ったのは、そのころだ。「障がい者野球の先輩に自転車競技もあるんだよと教えていただいて、そこからつながりました」。体験会で初めて競技用の自転車に乗り、「こんなにすごいんだ。(機能が豊富で)メカメカしいなあ。面白そうだな」と興味が湧いた。パラサイクリング日本代表の権丈泰巳監督から「自転車やってみないか」と声をかけられたことも川本の心を動かした。そして19歳でパラサイクリングへと転向。ちょうどリオデジャネイロ2016パラリンピックの1年前のことだった。

競技歴8カ月で出場したリオ2016パラリンピックで8位入賞も、悔いが残った
競技歴8カ月で出場したリオ2016パラリンピックで8位入賞も、悔いが残った

自転車競技を始めて半年でリオ代表に

ママチャリには長く乗ってきたが、競技用となると勝手が違った。「自転車に乗ること」自体が大変で、最初は10分乗るだけできつかったという。最初の目標は競技用の自転車に慣れることだった。

「そのために、とにかく長く乗る、自転車とともに走る、自転車にまたがってトレーニングをする。その繰り返しでした」

持ち前の運動神経の良さは自転車でも発揮され、川本は急成長。競技を始めてわずか半年でリオ2016大会の出場権を手にし、競技歴8カ月でパラリンピックに出場する。トラックのC2(四肢の切断や欠損など運動機能に障がいがある選手のクラス)3000mパーシュートで8位入賞を果たした。

しかしそのリオでは、フォームのぐらつきなどいくつか課題も見つかった。そのため今は東京2020大会に向け、タイムロスをなくすためのフォームを求めて工夫を重ねている。

「左足はないけど、左側を強くしたい」

新しく試しているのは左側を鍛えるトレーニングだ。右足だけに頼るのではなく、左足の残された部分を生かせるように左側も鍛えれば、より安定したフォームになると考えたからだ。「自分は左足がないですが、なくても左側も強くしていったら、どうなるかなと。そうやって、バランスを取っていく方が自転車に向くのではないかと思ったんです」。

自分で新しいやり方を考えたり、周りの強い選手を見ていいと思ったら取り入れたりしながらトレーニングを組み立てる。

「長い距離を乗ったり、姿勢の維持やコーナリング技術の追求などいろいろやっています。筋肉トレーニングも含めて、全てがマッチして良い走りになると思うんです。競技を始めて5年くらい経ちますが、体幹も強くなっていますし、だんだん(フォームの)ブレも少なくなってきたと思います。いろんなテクニックもこなせるようになってきました」と、胸を張る。

トレーニングは時にきつく、つらいこともあるが、やり切れたときの充実感や達成感があるから頑張れると笑みをこぼす。

「大変なこともありますし、しんどいこともあります。でも、仲間と励まし合いながらつらい練習を乗り越えたときや、トレーニングが終わったときに、みんなで『きつかったね』と言い合うのも楽しいです。仲間と一緒に頑張るのが楽しいからハマったのかな」

支えてくれた人たちのために金メダルを

得意種目はトラックだが、ロードにも果敢にチャレンジする。コンマ一秒でも上回ろうと最大限のスピードを出すために力の限り漕ぐトラック、強いメンタルで自らを追い込み漕ぎ続けるロード。「とにかくがむしゃらに漕ぐ」。己の限界に挑戦するのが自転車競技の面白さでもあるという。

「トラックもロードも上位に食い込んだり、一番になれたとき、いいタイムで走れているときは気持ちいいですね。東京2020大会のロードコース(富士スピードウェイ)は上りが多いと聞いているので、予想ができない。いつもの強豪とは違うメンバー、いろんな選手が上位になれる可能性があります。テクニカルなコースでもあるので、それも見どころです」

東京2020大会では、これまで支えてくれた人たちのために金メダルを取りたいと願う。

「初めて自転車に乗ったとき転んだけど、あの時、親が乗ることを許可してくれなかったら今がないから、本当に感謝しかないですね。それから、上下高校に入ってなかったら、野球とも出会ってなかったですし、野球に出会ってなかったら、自転車にも出会ってなかった。本当にいろんな偶然が重なって、今こういう場に立たせてもらっている。最初、全然結果が出ていなくても自分を育てようとしてくれた権丈監督、今まで僕に関わって下さった全ての人たちに感謝しています。リオでの経験を生かして、地元の東京では悔いのないようにしっかり走りたい。一生懸命頑張っているところを日本の皆さんに見てもらいたいです」

自分の可能性を広げてくれた自転車。自分がそうだったように、一歩を踏み出せば、きっと他の誰かも人生を変えるようなスポーツと出会えるはず。

「自分が乗っているのは2輪ですが、パラリンピックの自転車競技には他にも2人乗りのタンデム自転車、3輪自転車、手で漕ぐハンドサイクルがあります。自転車以外にもパラスポーツにはいろんなスポーツがあります。だから、面白そうだなと思ったら、何でもいいので1回体験してみてもらえたら。そうしたら、きっと楽しくなると思います」

「地元の東京では悔いのないように走って金メダルを」と誓う
「地元の東京では悔いのないように走って金メダルを」と誓う
(c) JPCF
One Minute, One Sport パラ自転車競技
01:28

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