東京2020公式アートポスターインタビュー 野老朝雄さん 手で描き上げたもう一つのエンブレム

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アートポスターは、近年のオリンピック・パラリンピックにおいて欠かすことのできない存在になっています。東京2020大会でも、国際的に活躍するアーティストやデザイナーに文化的・芸術的レガシーとなる独創的なポスターを制作していただきました。東京2020エンブレム「組市松紋」をデザインした美術家の野老朝雄さんは、東京2020公式アートポスターでは、コンパスと三角定規を使ってエンブレムの原画の痕跡を表現しています。野老さんの作品に込めた思い、伝えたいメッセージとは。

作品のコンセプト

ポスターのモチーフになっている東京2020エンブレムはどういった発想から生まれたのでしょうか。

アートポスターはエンブレムを基にしています。エンブレムはオリンピックとパラリンピックともに、形の異なる3種類の四角形が45ピースつながりあってできています。オリンピックとパラリンピックのエンブレムを同じ重さ、同じ面積で描くことによって「平等」であること、そして形の異なる四角形を組み合わせることで、国や文化・思想などの違いがあってもつながりあえる「多様性と調和」というメッセージを表現しました。

個々のピース「個」は何でもない四角形のように見えるんですが、ルール「律」に従って組み合わさることで、エンブレムという「群」になっています。この個と群と律の考え方は、スポーツにも通じるものがあります。例えば、サッカーは手を使ってはいけない、ラグビーは前に投げてはいけない、ボクシングは蹴ってはいけないという素晴らしいしばりがあります。そういうルール「律」があるからこそ、豊かな競技が生まれている。ある意味発明ですよね。

エンブレムのパーツの配置を変えると、オリンピックは50万通り以上、パラリンピックは300万通り以上の組み合わせがあります。個々の小さな単位が集まって、輪を成す。お花に見えるという人もいれば、「自分でもこうも見えるなあ」と、いまだに発見があります。それぞれの見え方でよいのではと思っています。

制作のこだわり

手描きにした理由は?

アートポスターは、そのエンブレムを手描きで改めて描こうと決めていました。人間の身体には限りがある。だからこそ、「今しかできないこと」をやろうと思いました。アスリートが自分の身体を使って戦っているオリンピック・パラリンピックという場の、文化的な側面で自分も身体を使って関わりたいという気持ちもあったのかもしれません。

定規とコンパスを使って、鉛筆で1本1本描いて、間違えたら消しゴムで消す。汗がトレーシングペーパーの上にぽたぽた落ちる感覚、目の徒労感。「ああ、こんなに手で描くのは人生でもそんなにないだろうな」と思いながら描いていました。コンピューターでの作図とは異なる困難さと喜びを体験できる生の作業でした。

「藍色」へのこだわりを教えてください。

江戸日本橋を描いた絵巻「熈代勝覧」(きだいしょうらん)、今はベルリン国立アジア美術館に所蔵されていますが、そこにも描かれている店先のファサード(外観)の暖簾(のれん)は藍染の勝色です。藍に白抜き。それをすごくやりたかったんです。藍を建てると言いますが、「地獄建て」(編注:藍草を発酵させた「すくも」を木灰の「灰汁(あく)」を使って自然発酵させ染液を作る)という言葉を誇りとして使っているように、江戸を彩ってきた文化がまだ残っている。

「すくも」が作られるようになって、各地で染められるようになり、日本全体が藍色でつながっている。日本だけではなく、海外にもインディゴを含む多くの染料があり、藍色は多数の文化に存在します。「藍」はみんなの色で、世界中がつながることができます。

創作の源は何でしょうか。

ずっと「つなげる」ということをテーマにしてきました。バトンを渡すという言葉があるとすると、渡し方がわからなくても、バトンそのものを削り出す、作ることはできますよね。手探りで制作しながら、この概念は(次の世代に)残すに足ることなのではと後で気づくことがあります。ポスターの原画を描いているときも、子どもたちのことを意識していました。若いお父さんたちのように一緒に走ったりはできませんが、自分の身を削って手で描いたエンブレムを子どもたちや次の世代に残せたらという思いがありました。そういった意味では、エンブレムやこのポスターも自分にとってのバトンなのかもしれません。

スポーツへの思い

スポーツの経験は?

子どもの頃にはスキーの指導員になりたいと思っていたくらいで、スキー部に入っていました。30年くらいやっていなかったのですが、オリンピック・パラリンピックのエンブレムを制作することになって、またスキーに行くようになりました。スキー板なども全く変わって、楽に滑ることができるようになっていて、進化にびっくりしましたね。それと恥ずかしい話ですが、スキーで転んだときに本当に起き上がれなくて、子どもたちに笑われました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、ずっと家に閉じこもって動いていないので、このままでは衰えるなと(笑)。だから余裕ができたら本格的に体を動かそうと思っています。そんなふうに意識を変えられる。東京2020大会は、いいきっかけですよね。スポーツは本当に好きですね。

東京2020大会で楽しみにしていることを教えてください。

陸上競技や7人制ラグビーも見たいですし、お会いしたパラカヌーの皆さんの活躍も気になりますが、何を見ても感動できると思っています。必ず目が離せない選手が出てくるんですよね。オリンピック・パラリンピックは、何万人の観客やテレビで見ている人々、その「個」が一丸になり「群」となる。音楽や美しい日没、桜を見たときに感動するように大会を見て感動し、それを共有できるチャンスだと思います。2019年のラグビーワールドカップでも、一見、ラグビーはルールが難しいので、子どもは入り込めないかもしれないと思ったのですが、小さな子どもも、「わー」とすぐに応援できて、みんなで思いを共有できたんですよね。同時にいろんな個や人種がいることを学ぶこともできます。東京2020大会を通じて「つながる」「つなげる」。自分の作品のテーマでもありますが、「個」がどういうふうに集まり、つながっていくか。現代の社会では単なるコネクトだけではなく、ソリダリティー(編注:社会の一員としての連携、相互扶助の関係)という意味も必要になってきていると思います。

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