最後まで何が起こるか分からない25.75km 宇田秀生がハマった競技の魅力

(C)Satoshi TAKASAKI/JTU
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パラスポーツは、1度見たらきっとハマる! オリンピックの競技とは異なる見どころが多く注目度も年々増している。選手が考える競技の魅力とは? やっていて楽しいと感じるときは? 2014年にパラトライアスロンと出会った宇田秀生は、現在世界ランキングでトップ争いを演じ、東京2020大会出場を目指している。そんな彼がなぜパラトライアスロンに心奪われ、「ハマった」のか。

リオデジャネイロ2016大会から採用

スイム、バイク、ランの3つの種目を組み合わせて行われるトライアスロン。パラトライアスロンの場合はスイム0.75km、バイク20km、ラン5kmの総距離25.75kmで合計タイムを競う。立位、座位、視覚障がいの大きく6つのクラスがあり、パラリンピックではリオデジャネイロ2016大会から採用された競技である。

アジアパラトライアスロン選手権では2度の優勝。ITU世界パラトライアスロンシリーズや世界選手権でも上位争いを繰り広げる宇田は、NTT東日本・NTT西日本に所属し、東京2020大会に向けて日々、努力を重ねる。自身が取り組む競技の魅力について、「負けず嫌いなので人と勝負できること。また最後まで(ハプニングなど)何が起こるか分からないところです」と語る。

宇田は1987年に滋賀県で生まれ、幼いころからサッカーに明け暮れ、大学まで競技を続けた。2013年に結婚したが、その年の5月、仕事中に右腕を切断する事故に遭った。「ヘリコプターに乗って、病院に運ばれました。痛みがすごくて、いろいろ考えるという状況ではありませんでしたが、『大丈夫、腕は付くだろう』という感じでした」。

しかし、手術の結果、腕は付くことなく、その後は片腕での生活を強いられるようになった。利き腕ではない左手でお箸を持つことや字を書くことが第一歩だった。「できないことが、増えていくというか、発見する毎日でした。『あぁこれもできない。これもやりにくいなぁ』と」。その一方で幼いころから運動神経は良かったという宇田。こんなことを家族と話した。

「入院しているときに、『これパラリンピック行けるね』みたいなことを言っていました。体を動かすことが好きだったので。今後は何ができるかと考えたときに、そんなことを話していました」

自らのことを「負けず嫌い」と話す宇田 (C)Satoshi TAKASAKI/JTU
自らのことを「負けず嫌い」と話す宇田 (C)Satoshi TAKASAKI/JTU

「泳ぐ」と「走る」がつながって

事故から半年が過ぎたころ、泳ぐことが好きだったことから水泳を始めた。さらに1年が経過し、宇田はトライアスロンと出会う。一緒に泳いでいた仲間に「ずっとサッカーをしていた」という話をすると、水泳の「泳ぐ」と、サッカーの「走る」がつながり、競技を紹介された。

「最初はトライアスロンというものに対し、知識が0だったので、いろいろと調べました。そんなとき地元の滋賀で大会があるということで、事務局に連絡し、『片腕なんですけど、どうやったらできますか』ということを聞きましたね。自転車もまだないですから、体一つで練習会に参加しました」

その練習会で、宇田は事故に遭ってから初めて、全力で走った。体力が落ちている分、とてもきつかった。しかし、「がんばって走る機会って、なかなかないじゃないですか。久しぶりに走って気持ち良かったのを覚えています」。

その後もトレーニングを積み迎えた2015年6月、宇田は初めてトライアスロンのレースに臨む。「完走できたらいいな」という気持ちでスタートしたものの、2位という好成績を収めた。結果以上に、ゴールできたことへの喜びを感じたと言う。さらに2カ月後には、フィリピンで行われたアジアパラトライアスロン選手権に日本代表として出場。そこで宇田は優勝を果たした。このことで、「真剣にやったら、おもしろいことになるんじゃないか」と、競技への本格的な挑戦を決めた。

大会でバイクに挑む宇田。道具への工夫にも注目してほしいと話す (C)Satoshi TAKASAKI/JTU
大会でバイクに挑む宇田。道具への工夫にも注目してほしいと話す (C)Satoshi TAKASAKI/JTU

自転車やウェットスーツ、選手それぞれに工夫

それから5年以上が経過した。当初、苦労したことは道具選びだったと宇田は言う。トライアスロンに挑むためには、必要な道具が多い。自転車やウェットスーツなど「どんなものがいいのか」という情報収集が第1歩だった。

道具をそろえても、それを使いこなさなければならない。例えば自転車では、片腕の宇田にとって乗りにくいところがあるという。「ゆっくり乗る分にはいいですけど、全力でこぐとバランスを保つのが難しいです」。新たに自転車を作った際には、乗りこなすためのトレーニングが欠かせない。

さらに自転車には工夫がされている。「一個のレバーで前後のブレーキを動かせたり、(左手で操作するため)シフトも全部左に持ってきています。僕もレースに行って、『この選手はこうやっているんだ』というような発見があります」。立位のクラスでは、それぞれの障がいに応じて、自転車の改良や、義足といった装具の着用が認められている。宇田は「そういうところも注目して見るとおもしろいかもしれません」と話す。

競技の際、大切にしているのは、「イメージづくり」だ。自らが優勝する姿も含めてイメージしてスタートラインに立つ。「レース中にはもちろんトラブルもあるわけで、とっさに対応できるように、いろんなイメージを持って普段からトレーニングをしています」。

かつて、ランでコースを間違うというハプニングを経験した。この「何が起こるか分からない」は、宇田にとって、トライアスロンに「ハマった」理由でもある。「自転車がパンクしてしまうこともあります。自分のコンディションも、状況も、毎レース違いますから」。

宇田は東京2020大会を恩返しの舞台にすると誓う (C)Satoshi TAKASAKI/JTU
宇田は東京2020大会を恩返しの舞台にすると誓う (C)Satoshi TAKASAKI/JTU

サッカーで鍛えた最大の武器「走力」

宇田のレーススタイルは後半追い上げ型だ。何が起こるか分からないからこそ、自身も「最後まで諦めない感じを見てもらえたら」とアピールする。スイムで耐えて、バイクとランで順位を上げていく。特にランで生かされる走力は、サッカーで鍛えた最大の武器と言えよう。

「死ぬほど走らされましたからね。イメージ的には『地球2周分』くらいは走っているかなと(笑)。サッカーをやっていて良かったなと思います」

東京2020大会に向けては、「僕としては丸一年延びたので、さらにレベルアップして、いいところを見せられればなと思っています」とポジティブに捉える。その上で、強化策として自身よりレベルの高い選手のいるところに身を置き、競技力の向上を目指している。

「けがをしたときから、様々な人に助けてもらっているので、自分が目立って、恩返しをしたいです」と東京2020大会への意気込みを語る宇田。トップ3入りで世間の注目を奪う。

One Minute, One Sport パラトライアスロン
01:33

パラトライアスロンのルールや見どころを1分間の手書きアニメーション動画でご紹介します。トライアスロンに詳しい人も、そうでない人も、まずは動画をチェック!

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