戦術一つひとつに奥深さ、おもしろさ 田中光哉がハマった競技の魅力

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パラスポーツは、1度見たらきっとハマる! オリンピックの競技とは異なる見どころが多く注目度も年々増している。選手が考える競技の魅力とは? やっていて楽しいと感じるときは? 2017年にパラテコンドーを始めたばかりの田中光哉は、2020年1月に行われた代表選手最終選考会を勝ち抜き、東京2020大会への出場が内定した。そんな彼がなぜパラテコンドーに心奪われ、「ハマった」のか。

根っからのスポーツ好き、初の格闘技挑戦

オリンピックのテコンドーとは異なり、蹴り技のみで攻撃するパラテコンドー。試合では有効な攻撃に得点が与えられ、得点の高い方が勝者となる。田中にとって初めての格闘技挑戦で、当初は慣れない競技にけがも多かった。何より大変だったのは、蹴りを入れられたときの「痛み」だという。

「『痛い』というイメージを持たず、先に東京2020大会出場という頭でいたので、やってみると『びっくりするくらい』痛いんですよね。格闘技経験がなかったので、余計にかもしれませんが、痛みが最初に大変でした」

「スポーツがなかったら人生つまらないだろうなというくらい見るのも、するのも好きですね」。そう笑顔で話す田中は根っからのスポーツ好きだ。生まれつき両肘から先が欠損という障がいがあったが、子どものころはサッカーや剣道などに取り組み、大人になってからもアンプティサッカー(主に上肢または下肢の切断障がいのある方々により行われるサッカー)に挑戦した。

「スポーツならば、(人と)同じようにできるという点に楽しさを覚えました」

大学卒業後の進路も、障がい者スポーツに関わる道を選んだ。関連団体に勤務し、ときに障がいのある方がスポーツを楽しめるようにサポートし、ときに選手発掘イベントの企画を担当した。

パラリンピックのメダル「これ取れるのかな」

そんな仕事に取り組む中で、田中の心を揺らすような出来事があった。リオデジャネイロ2016パラリンピック後、メダリストの小学校訪問に帯同する機会でのこと。子どもたちはメダルを見て、目を輝かせていた。田中もそのメダルに触れたとき、こう思ったという。「これ取れるのかな」。

パラリンピックの舞台に立つチャンスが田中にはある。「これに挑戦しないのはもったいない」という思いから、マッチする競技を探した。球技が好きなことから卓球、他には陸上競技、も頭に浮かんだ。そんなときにテコンドー協会が、パラテコンドーの選手を発掘しているということを知り、チャレンジを決めた。24歳のことだった。

「東京2020大会に出るというのが、明確な目標としてあったので、出る競技は、その中で可能性の高いものがいいと考えました。また競技を変えて、様々なことに挑戦されているアスリートの方が、パラリンピックの世界にはたくさんいるということも知っていたので、そういうチャレンジをしてみようとも思いました」

競技を始めて約3年で東京2020大会への内定を手にした田中(左)
競技を始めて約3年で東京2020大会への内定を手にした田中(左)

やればやるほど難しくて、おもしろい

当初、苦労した「痛み」だが徐々に慣れて現在、試合中はいかに戦うかという部分に集中している。「この状況でどうやって勝つか」。競技の経験年数が長くなるにつれ、勝利への意識が高まっていった。

競技を始めて3年余りで、目標に掲げた東京2020大会の出場内定を手にした。「絶対に出られるという思いを持ってやっていました。ただ内定が決まったときは、あまり実感が湧かなかったです。ただ、この3年間を通してみると、それしか考えずに過ごしていたので、一つクリアしたというところですね」と、振り返る。

自らの人生を懸けたパラテコンドーについて、田中は「おもしろいですね。やればやるほど難しくて」と話す。大舞台への出場を内定したとはいえ、指導を受けているコーチのように、相手の動きが読み取れるようなレベルには届かない。その分、今後長い時間をかけて、自らの技術を磨いていきたいと意気込む。「うまくなっていく自分が楽しくて、続けているところがありますね。一生懸命になれるところです」。

「やればやるほどうまくなっていく自分が楽しい」と語る田中(本人提供)
「やればやるほどうまくなっていく自分が楽しい」と語る田中(本人提供)

「闘争心」と「冷静さ」のバランスも大切

パラテコンドーにおいて、重要な「蹴り」の種類は前蹴りや踵落としなど10以上近くある。選手はそれを組み合わせて、戦術を考える。さらに対戦相手によって上肢の形が異なる点も、それを考える上でポイントの一つとなる。また田中の場合は身長176cmで、属する61kg級では他の選手よりも足が長いことから、リーチの長さを生かしたい。

「ボクシングのジャブに近いのですが、前側の足で相手を突いて、自分の後ろ足で『ボン』と仕留めるようなイメージです」。相手が嫌がるように攻めて、最後に一撃を加える。逆に言えば、相手を自分の懐に入れさせないような戦い方をする。いかに2分×3ラウンドの中で勝利するかは、戦術にもかかっている。

「ただ戦うというよりも、戦術一つひとつに奥深さ、おもしろさを一番感じています。そこが長けてくると自分の身体能力以上に勝利できるようになると思うので、伸ばしていきたいです」

それに加えて心の部分、「闘争心」と「冷静さ」のバランスも勝敗のカギを握るという。その際大切なのは「心の安定感」だ。

「自分を第三者の視点で試合中、俯瞰(ふかん)的に見られるよう心掛けています。自分が相手と直視する目線ではなくて、会場全体というか、コート全体を見られるようなイメージづくりというのは、日ごろ練習をやっている中でも持っていますし、そこが自分の冷静さを保つためには大事かなと思っています」

パラテコンドーは東京2020大会で初実施となる種目だ。田中は競技初日に登場予定で、「全力で自分の力を発揮できるような、テコンドー界としても最高の大会になれば」と意気込む。その上でこんな姿を思い描く。「一人でも、同じような障がいのある子どもや、その親御さんに見てもらって、僕の姿から何か感じてもらえるようなことがあれば、プラスアルファいいことかなと」。

自身も人生を変えるきっかけとなったパラリンピック。今度は田中自身がその舞台で、多くの人にきっかけを与える。

One Minute, One Sport パラテコンドー
01:24

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