数秒で「一本勝ち」大逆転もできる 永井崇匡がハマった競技の魅力

nagai takamasa

パラスポーツは、1度見たらきっとハマる! オリンピックの競技とは異なる見どころが多く注目度も年々増している。選手が考える競技の魅力とは? やっていて楽しいと感じる時は? 視覚障がい者のみで行われる柔道73kg級で東京2020パラリンピック代表候補に内定している25歳の永井崇匡は、金メダル獲得が期待される日本柔道界注目の若手だ。そんな彼がなぜ柔道に心奪われ、「ハマった」のか。

残り2秒で負けていてもチャンスがある

パラリンピックの柔道はオリンピックと異なり、相手の襟と袖の決められた位置をつかみ、組み合った状態から「はじめ」となる。途中で両手が離れた場合は「待て」がかかり組んだ状態に戻され、場外に出てしまった場合には中央に戻って組み直しとなる。

「つかんで始まるので組み手を争うことがなく、いきなり技に入れる。数秒で『一本勝ち』ということもあります。健常者の柔道だったら残り5秒だと守りに入ることもできますが、パラリンピックの柔道では組んでいるので逃げられない。残り2秒で負けていてもまだチャンスがある。大逆転もありますし、魅力だと思います。組みながら相手の気持ちを感じ取る。それも柔道の好きな所かな」。少し照れながらそう語った。

しっかりとした形と軸を作って技を掛け合う。「柔道は駆け引きが面白い」と永井は語る
しっかりとした形と軸を作って技を掛け合う。「柔道は駆け引きが面白い」と永井は語る

見たことがない柔道、技の形が分からない

永井は2歳で視力を失い、光を感じることもできない。それでも小さい頃から外で遊ぶことが好きで、ボール遊びをしたり、走ったりしていた。ただ健常者と同じように遊んでいたため、いろんな所にぶつかりケガをする。そこで両親が「安全に自由に体を動かすことができる所はないか」と探し、永井が小学1年生のとき、柔道なら屋内なので大丈夫だろうと、父親が知り合いの道場に連れて行ってくれたのがきっかけだという。

練習がきつく初めはついていくだけで精一杯。「面白い」とは思わなかった。それはそうだろう。2歳から目が見えない永井は、「柔道」を見たことがない。柔道がどういうスポーツ、武道なのか、どんなことをするのかも分からない。

「技の形もまったく分からず始めました。見様見真似は難しいので、技をやってもらって触りながら一つずつ覚えていきました。すごく時間がかかりましたね」と、苦笑いした。

柔道が面白くなってきた

パラリンピックに出たいと思い始めたのは中学生の頃。リオデジャネイロ2016は実力的にチャンスがあったものの、膝の前十字じん帯断裂の影響で諦めざるを得なかった。

リオ後、東京開催ということで再び本格的にパラリンピックを意識して強化するようになり、2018年アジアパラ競技大会で銅メダルを獲得。世界大会で実績も残せるようになってきたが、それでもまだ「面白さ」は感じなかった。しかしここ1年で、そんな心境に変化が表れ始めた。

障がいの程度は全盲(B1)から弱視(B2、B3)に分かれているが、試合は視力に関係なく体重別で行われ、全盲の選手と弱視の選手が一緒に戦う。

「一般的にB1の選手は弱視の選手に比べて、自分の動きをちゃんと理解していない人が多く、軸の作り方があまりうまくない。自分もそういう所から逃げていたというか、力でカバーすればいい、ただただ頑張る、体を鍛えて勝つという思いだけでやっていました。でも世界大会だとそれでは勝てなかった。それで考えて……」

力任せの柔道に限界を感じた永井は基本に立ち戻った。しっかりとした技の形と軸を作る。健常者に近い柔道を目指し、その中にB1ならではの工夫を入れる。それに取り組み始めてから、柔道が楽しくなってきた。

「技のフォーム、形、軸の作り方、重心の位置を覚えて自分のものにする。技のフォームが定着し完成すれば、技の成功率を高められる。技術的な所で相手を倒すという考え方に変わりました。相手の力を使っているからだと思いますが、投げた時に力を感じないというか、無理やり投げた感じがしなくて、そんなふうにタイミングで投げられた時は快感ですごく面白い。それから駆け引きですね。一番練習していることでもあるので、面白いなと思います」

見えないことによる「怖さ」を克服するために、自分の体勢を意識
見えないことによる「怖さ」を克服するために、自分の体勢を意識
(c) JBJF

いつ技をかけられるか、「怖さ」との戦い

そんなふうに楽しさを感じる一方で、全盲だからこその課題もあった。それは見えないことによる「怖さ」だ。なぜ怖いのか。永井はこう分析する。

「自分にとっては、相手の体勢がしっかり分かっていないから怖いというのと、自分がしっかり反応できる体勢になってないから怖いという、その2つが大きくて……。恐らく他の全盲の選手も力で押さえ相手の動きを止めて、技をかけられないようにしたい、という思いが強いから、力づくになるんだと思います」

怖さはなかなか克服できないものだが、少しでも減らしていきたい。カギになるのはやはり「軸」だ。

「自分の頭が下がっていると、腰が引けて相手の技への反応が遅くなる。軸を作ってしっかり立っていれば、反応も速い。自分の体勢を意識するようにしたら相手の動きが分かるようになって、こういう感じで技をかけてくるのかなとイメージできるようになった。それで少しずつ怖さは減ってきました。東京2020大会では、できるだけ怖くない状態に近づけられると思います」と、笑顔も見せた。

柔道といえば日本、「一本」で金メダルを取りたい

日本男子は、柔道がパラリンピックに正式採用されたソウル1988大会から活躍を見せてきた。しかし、過去3大会での金メダルは、ロンドン2012の男子100kg超級で正木健人が獲得した1つのみ。永井は地元開催のパラリンピックで威信を取り戻したいと願う。

「日本が柔道で金メダルが1個もないのというのはやっぱり寂しいですし、皆さんにも柔道で金メダルをという思いがあると思います。個人的にも金メダルを取りたい。地元だと応援してくださる方の数も多いのでうれしいですし、自分が金メダルを取ることで、柔道をやってくれる人やパラリンピックを目指す人が増えたらうれしいです」

得意技は巴投。いつでも「投げる」つもりで
得意技は巴投。いつでも「投げる」つもりで
(c) JBJF
見てほしいのは「投げて勝つ」柔道
見てほしいのは「投げて勝つ」柔道
(c)JBJF

何でもやるからには「負けたくない」「人より上に行きたい」という永井。そんな性格の自分に柔道はハマった。

「組み合って1対1でやるスポーツで分かりやすいですよね。強かったから勝った、弱かったから負けた、とはっきりしている。すっきりします。柔道をやることで自分を高められるし、見つめ直すきっかけにもなっています。自分が行けるパラリンピックの最高ラインまでは達していないと思うので、努力次第でもっと自分のポテンシャルを引き出せると思いますし、もっと強くなれると思っています。そうなれたら、オリンピックの選手たちに近づけるかな」

強みは、「技のスピード。相手の懐に飛び込む一瞬のスピード」だ。そして見せたいのはやはり「投げて勝つ」柔道。

「試合では寝技で勝つ、『指導』で勝つことも頭に入れていますが、やっぱり『投げたい』、それはいつでも自分の中心にあります。得意技は巴投。パラリンピックの柔道は技がかけやすいので、技の数が多いし、一本率が高い。見てほしいのは『一本』ですね。やっぱり柔道といえば『一本』ですからね」

「自分が金メダルを取ることで、柔道をやってくれる人やパラリンピックを目指す人が増えたらうれしい」と語る永井
「自分が金メダルを取ることで、柔道をやってくれる人やパラリンピックを目指す人が増えたらうれしい」と語る永井
One Minute, One Sport パラ柔道
01:24

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