「ブレード・ジャンパー」マルクス・レーム 自分の可能性は「他人が決めることではない」

東京2020大会で、走幅跳3連覇と自身が持つ世界記録の更新を狙うマルクス・レーム
東京2020大会で、走幅跳3連覇と自身が持つ世界記録の更新を狙うマルクス・レーム

1年後の2021年9月1日(水)、東京2020パラリンピックの陸上競技男子走幅跳T64決勝が行われる。パラリンピックでこれまで3個の金メダルを獲得しているマルクス・レームは東京2020大会で、走幅跳3連覇と自身が持つ世界記録の更新を狙う。次世代アスリートに感動と刺激を与える存在であり続ける意味とは。大会への期待や大好きな東京についてなど、現在の心境を聞いた。

東京で金メダルと世界記録更新を

東京2020パラリンピック注目のアスリート、その一人として名が挙がるのが、走幅跳と4x100mリレー金メダリスト、ドイツのマルクス・レームだ。

「ブレード・ジャンパー」の異名を持つレームは、8.48mの世界新記録で世界をあっと言わせ、瞬く間に走幅跳界のトップに躍り出た。この記録は、過去2大会のオリンピックでも金メダルに値するくらいの大ジャンプだ。1年後に控えた東京2020大会で、レームは走幅跳で歴史に残るような3つ目の金メダルを獲得し、パラリンピックのレジェンドとして立場を不動にすることを目指している。

「それが自分にとって最大の目標」と、レームは語った。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、思うような練習ができず、大会もほとんどが中止になった。大会延期は、フィジカルよりメンタルへの影響の方が大きいという。

「今年行われた大会はたった2つ。ほとんど競技はできていない。大事なのは、大会まで気持ちを強く持つこと。身体的にはちゃんとジャンプできていますが、パラリンピックという大きな目標まではまだ1年あるので、アスリートにとってメンタル面で大きな試練です」

それでも、「必ず金メダルを持って帰れるように、この時間を使ってしっかりと練習したい」と前向きに話した。

延期で東京後のプランに変化?

レームは8月に32歳の誕生日を迎えたばかりだ。アスリートとしてはベテランの域に入ろうとしている。そんなレームが、3大会目のパラリンピックとなる東京2020大会後に競技から引退し、様々なプレッシャーから解放されたいと思うのは当然のことだろう。確かに引退を考えていたという。しかし、引退に関して今は少し慎重なスタンスになっている。

3つのパラリンピック金メダル、4つの世界選手権金メダル、5つのヨーロッパ選手権金メダルを手にしているレームにとって、東京2020大会の延期は彼の競技人生を延ばす可能性がある。

「リオ直後に聞かれたら、『おそらく東京が僕にとっての最後のビッグイベントになるだろう』と答えていたと思います。でも、東京が2021年に延期になり、パリはたった3年後……自分の体と会話してどうするか決めたい。トップレベルで競技できている限り、楽しむことができれば、続けたいとは思っています。まだ、どうなるかわからない」

若い世代に刺激と感動を与えるために。パラリンピック金メダルと記録更新に挑み続ける
若い世代に刺激と感動を与えるために。パラリンピック金メダルと記録更新に挑み続ける

新たなトップスタンダードの確立

レームは、障がいによって自らの可能性が限定されることはないことを体現している。人々が感銘するのは、「何を達成できるかは他人が決めることではない」という彼の確固たる姿勢だ。

「みんなの手本になろうとは思っていませんが、いろいろな選択肢があるということを示したい。可能だということを、結果を出して見せたい」とレームは言う。

「何ができるのか、できないのか、人が決めることではない。競技を始めたころ、『将来、オリンピック選手と戦って勝つ』と周りに言ったら、誰も信じてくれなかっただろう。でも実際にそれが可能だと証明して見せた。僕にとって一番の賛辞は、僕を見て刺激を受けたと言ってくれること」

若い世代の手本になることがレームにとって一番の誇りだ。最近、顧客の一人が彼のことを「最も感動と刺激を与えてくれる人」と言ってくれたように。

「先日、小さな男の子がインタビューされているのを見ました。私は義肢装具士でもあり、男の子は私のお客さんのひとりで、義肢を作ってあげたんです。インタビューで、『君のロールモデル(お手本にしている人)は誰?』との問いに、僕の名前を挙げてくれた。今でもぐっときます。誰かに感動を与えることができたというのは、僕にとって一番の誇りです」

オリンピック選手ではなく、パラリンピック選手がドイツ記録を持っていたら素晴らしいでしょう

オリンピック界にもちょっとした刺激になると思います

レームに不可能なことはない。そんな印象さえ受ける。目標は、来年のパラリンピックにとどまらない。1991年以降破られていないオリンピック競技の世界記録である、マイク・パウエル選手の8.95mを超えることができるかそれも視野にある。

「8.5mを超えられるか超えられないかが、素晴らしい選手とトップ選手の違いだと思う。僕はトップ選手でありたいので、8.5mを跳ぶことが次の目標。それを跳べたら、長く更新されていないドイツ記録の8.54mはもう少し。そろそろドイツ記録を塗り替えないとね」

東京が大好き

東京で開催されるパラリンピックは、「人類にとって歴史的な瞬間になる」とアンドリュー・パーソンズIPC会長は語った。レームも個人的に東京での大会を楽しみにしている。彼は東京が大好きなのだ。

「何度訪れても楽しい。今年、東京に行けないのがすごく悲しいです。東京にはもう5、6回行っていますが、いつもエンジョイしています」

「温かい歓迎やおもてなし、接し方、本当に素晴らしいと思います。日本食も大好きですし、本当に美味しいです」

「初めて日本に行ったときは2週間滞在しましたが、毎日違う日本食を食べたいと決めて、本当にそうしました。楽しかった」

「日本の第一印象はとても良かったです。毎回、そこに戻るたびハッピーになります」

2つが1つに「つながる」大会に

競技人生でいくつものハードルを乗り越えてきたレームは、将来オリンピックとパラリンピックがもっと近い存在になり、「つながる」ことを願っている。例えば、オリンピック選手とパラリンピック選手が同じ種目に出場する、ともにリレーを走り、オリンピック選手からパラリンピック選手へとバトンが渡るような。

「いつかそれが実現できれば、もし僕が白髪のおじいさんになってテレビで観戦していても、両大会の橋渡しとして、オリンピック選手とパラリンピック選手が一緒にリレーで走る瞬間を見たら、きっと涙が出るでしょう。それこそが僕が何年も提唱してきたことだから」と、レームは目を輝かせる。

「オリンピックを閉幕し、パラリンピックを開幕する必要がなくなりますからね。象徴的な出来事になると思います」

「8カ国の代表選手が走る4x100mリレーに、オリンピック選手とパラリンピック選手が2名ずつ出場する。競演のシンボルとして、聖火をおろし、リレーで勝ったチームの選手が再び聖火を聖火台に灯したら、『さあ、大会を続けよう』というメッセージになる」

「これこそが『つながる』ということ。別々ではなく一体になる。象徴的なことです。実現できれば素晴らしい」

オリンピックとパラリンピックが「つながる」実現できれば素晴らしい

このアイデアには、パーソンズIPC会長も賛同している。

「いくつかの種目でオリンピックとパラリンピックの選手が一緒に競うジョイントイベントを行うことは、実にいいアイデアだと思います。イベントを通して、すべての人を受け入れ、統合する姿勢を見せ、強いメッセージを発信することはいいことです。それに、マルクスのアイデアなら間違いはないですよね」

オリンピックとパラリンピックが「つながる」、両大会の選手が一緒にリレーで走る、それがレームの願いだ
オリンピックとパラリンピックが「つながる」、両大会の選手が一緒にリレーで走る、それがレームの願いだ