アンドリュー・パーソンズIPC会長 東京2020大会は「人類にとって歴史的な瞬間になる」

東京2020パラリンピックへの思いを語ったアンドリュー・パーソンズ国際パラリンピック委員会(IPC)会長
東京2020パラリンピックへの思いを語ったアンドリュー・パーソンズ国際パラリンピック委員会(IPC)会長

東京2020パラリンピックまで1年。2021年8月24日(火)、世界中が一つとなって東京2020パラリンピックの開幕を迎えます。世界中のアスリートたちが東京に集い、22競技539種目を通して、最高のパラスポーツを披露します。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大会が1年延期になりましたが、アンドリュー・パーソンズ国際パラリンピック委員会(IPC)会長は、延期によって得たものもあると言います。「東京2020大会は『新たな世界づくり』のきっかけとなり、新型コロナウイルスを克服した象徴として、『スポーツ・平和・友愛』」を祝福する場になる」。パーソンズ会長はそう信じています。

延期から得たもの

1年延期になった東京2020パラリンピックに向け、準備の仕切り直しは大変でしたか?

とても大変でした。全面的に計画を立て直さなければなりませんでした。数年かけて多くの準備をしてきたので、決して一からとは言いませんが、全会場の確保、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委員会)をはじめ、日本政府や自治体、IPCのパートナーであるIOC(国際オリンピック委員会)などと、すべての要素や条件において合意する必要がありました。

大会準備のガイドとなるのは何か。安心・安全な大会とはどのようなものなのか。私たちは5、6年間、同じ目標に向かって努力してきましたが、多くのことを変更し、アプローチの仕方まで変更を迫られています。とても大変ですが、未来の設計図となり得るとも思っています。というのも、削減と縮小を図っているからです。これはとても有意義な作業です。なぜなら縮小というコンセプトを実践すれば、大会にとって絶対的に必要なことに焦点をあてることができるからです。

延期から得たものがあるということですか?

その通りです。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大という状況を受けて、大会開催に不可欠なもの、「基礎」となる要素にフォーカスしようとしています。経費削減につながる200の項目を洗い出すことができましたが、これは次の開催都市にとっても参考になります。もちろん1年前ではなく、時間をかけてそうすべきですが、今後のパラリンピックのモデルになるという点でメリットになると私は考えています。

パラリンピックは、障がいを尊重する瞬間

今、世界中で起きていることを鑑みて、来年の開会式は会長にとってどのような意味を持ちますか?

単なるスポーツ以上の意味を持つでしょう。新型コロナウイルスという人類共通の脅威・敵に打ち勝ち、乗り越えた象徴になると思います。それは大きな意味を持ちます。最近、「新しい日常」やポストコロナの世界について多くのことが語られるようになりましたが、今はまだ自分自身や健康のこと、家族のこと、大切な人たちのことを思う時です。

世界的な感染拡大が収まれば、私たちはこれまでのことを振り返り、反省するでしょう。この状況から学ぶことは必ずあると信じています。私たちは地球との関係を見直さなければならないですし、考えを改める必要があります。大会がそのきっかけになると信じています。なぜなら、大会は人々を一つにし、スポーツ・平和・友愛の力強い祝祭だからです。大会は、前向きで、私たちを結びつけるものすべてを祝うために人類が集う機会です。その中でパラリンピックは、障がいを尊重する、人類にとって唯一の瞬間なのです。ですから大きなきっかけとなるでしょう。

そして、新型コロナウイルスの世界的な感染を振り返り、「以前の日常やライフスタイルがこの状況をもたらしたのだ」と気づくでしょう。私たちは新しい世界、新しい日常を築いていかなければなりません。大会はそのきっかけになると思うのです。今こそやり方を変える時です。それはファンや世界中のアスリートだけでなく、人類にとって大きな意味を持ちます。オリンピック・パラリンピックの開会式を皆で迎えた時、人類にとって歴史的な瞬間となることは間違いありません。

アスリートに今、伝えたいこと

パラリンピックを1年後に控え、アスリートたちにどんなメッセージを届けたいですか?

まずアスリートたちに伝えたいのは、私たちを信頼してくださいということです。来年、皆が輝きながら競技し、世界に明るいメッセージを発信できるよう、可能な限り最高の舞台を準備する努力をしています。不安があるかもしれません。半信半疑のまま人生で最も重要な大会に向けて準備しなければいけないことも理解しています。それは簡単なことではありません。IPC、IOC、日本そして東京2020組織委員会は、今、直面している状況のもとで最高の大会を開催できるようあらゆる努力をしています。アスリートたちには強い気持ちを持ってほしいと伝えたいです。1年後には東京で共に開会式を迎えるのだから。

東京2020大会では2つのスポーツが初めてパラリンピックにデビューします。

はい、バドミントンとテコンドーがパラリンピックのプログラムに加わりました。どちらも素晴らしい競技です。

パラバドミントンに参加する選手の障がいの種類は幅広く、下肢障がいの選手や車いすでプレーする選手など様々です。アクション満載で、とても楽しみにしています。私が初めてマルチスポーツレベルでパラバドミントンを見たのは、昨年、ペルーのリマで開催された「パラパンアメリカン大会」でしたが、それは凄かった。ペルーの選手が試合に勝って金メダルを獲得した時は感動しました。あの午後を思い出しただけでもぞくぞくします。観客も大興奮でした。競技の面白さを存分に見せてくれ、皆が一体になることができました。

一方のテコンドーは、主に上肢に障がいがある選手による組手の競技が行われます。技術の高さやスピードには目を見張るものがあり、見ていてとても面白い競技です。

パラリンピックデビューする2つの新競技を見るのがとても楽しみです。

女性アスリートや難民選手の参加を増やす

IPCは長年、パラスポーツへの女性参加を増やすことを一つの目標に掲げています。男女平等に関して、現段階でどこまで達成できていると感じていらっしゃいますか?

まだ目標は達成できていません。ただ、目標の男女比50:50に向けて、大きく前進はしています。国際競技連盟(IF)と協力していくつかのスポーツにおける女性アスリートの参加機会を創出しました。パラリンピックの基本原則の一つに、女性アスリートの参加機会を増やすことが掲げられています。従って、IPCもそれにしっかり取り組んでいます。競技、種目、種別すべての検討と承認において、女性参加が重要なポイントであると位置づけています。男女比50:50はまだ達成できていませんが、必ず実現します。

リオデジャネイロ2016大会では2名の選手が難民選手団としてパラリンピック旗を掲げて参加しました。東京2020大会でも同じような選手団の参加は予定していますか?

はい。選手数も増えます。難民選手団には多くの選手、競技を代表するアスリートに多く加わってほしいと考えています。どのアスリートを入れるべきか、どこのどのスポーツの選手なのか、各IFと連携して確認しているところです。

リオでは2名でしたが、それでは少なすぎるので、増やしたい。難民選手団は東京2020大会でも予定していますし、とても素晴らしいことだと感じています。彼らがベストを尽くせるように、強力なサポートチームも準備します。この状況の中でも、練習や準備に専念できるように最高のインフラを提供したいと思います。来年のこの取り組みをとても楽しみにしています。

障がいは個性

パラリンピック・ムーブメントに対する認知に関してはどう思いますか? 特に、伝統的に障がいのある方を軽視する傾向がある国ではどうですか?

パラリンピック・スポーツの認知度は世界的に広がっていると思います。それは数字にも現れています。もちろん、2年ごとに冬季、夏季のパラリンピックが交互に開催されることも影響しています。

私たちは見方を変えようとしています。障がいのある方を無視したり同等に扱ってこなかった国においても同じです。

スポーツには社会を変える力があります。特に子どもへの影響は大きい。スポーツの良いところは、国の将来を担う子どもたちとスポーツを通して容易にコミュニケーションできるところです。子どもたちは政治家として国をリードするだけでなく、店舗や飲食店のオーナー、事業主や社員といったビジネス界の将来を担う世代です。彼らが社会を形作り、障がいのある方に対する市民の見方を変える役割を果たします。

だからこそ私たちは子どもたちや若者に特に注目しているのです。社会に存在する様々な考え方、先入観や偏見などに彼らが染まる前、できるだけ早いうちにアプローチしてパラリンピック・スポーツに触れさせることができれば、ものの見方・考え方を、「ほら、障がいのある方は何でもできる。トップアスリートでもあるし、ビジネスマンとしても友人としても父親や母親としてもトップレベル。やりたいことは何でもできるし、皆と何ら変わらない」というマインドに変えることができるでしょう。

障がいは個性であって、レッテルであってはなりません。それを広く理解してもらいたいのです。人によっては「彼女は障がい者だ」という言い方をしますが、そうではなく、彼女は女性です。素晴らしい女性です。母親であり、プロです。誰でもそうであるように、欠点もあります。そして、車いすを使っています。

すでに変化は感じています。障がいのある方のイベント開催を拒否していた国においても、パラリンピックやパラリンピック・ムーブメントを受け入れるようになりました。確実に前進していると思いますが、まだまだです。

金メダリストのマルクス・レーム選手(走幅跳と4×100mリレーで計3個の金メダル獲得)は将来、オリンピックとパラリンピックのアスリートが同じイベントで競い合う日が来るだろうと言っています。これは現実的だと思いますか?

IOCやオリンピック・ムーブメントとのパートナーシップに限界はありません。私たちの関係は非常に良く、いろいろな提案をオープンに検討しています。ですから、そのようなアイデアが将来実現してもおかしくないでしょう。

私としては、オリンピックとパラリンピックは今のように別々の大会として開催されるべきだと思っています。どちらも大きくて柔軟性のある「スポーツ」という世界に属し、冬季、夏季と2年ごとに大会が開催されます。

それでも、いくつかの種目でオリンピックとパラリンピックの選手が一緒に競うジョイントイベントを行うことは、実にいいアイデアだと思います。ジョイントイベントを通して、すべての人を受け入れ、統合する姿勢を見せ、強いメッセージを発信することはいいことです。それに、マルクスのアイデアなら間違いはないですよね。