パワーリフティング
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パラリンピック連覇、シアマンド・ラーマン選手を偲ぶ~ 310kgを挙げた超人
リオデジャネイロ2016パラリンピックで金メダルを獲得し、表彰台で笑顔を見せるシアマンド・ラーマン選手
2016 Getty Images
シアマンド・ラーマン選手ほどの超人アスリートは、そう現れないだろう。
今は亡きラーマン選手は、リオデジャネイロ2016大会で310kgのバーベルを挙げ、パラリンピックで300kgの壁を突破した初めてのパワーリフターとなった。そして2大会連続の金メダルを手にした。
2017年12月、ラーマン選手は「新たな世界記録を打ち立てたい」と東京2020大会への抱負を語っていた。前人未踏のパラリンピック3大会連続金メダルという偉業を成し遂げ、トップに君臨し続けようとうかがっていた。しかし2020年3月、故郷イランのオシュナビーエにおいて、31歳の若さで亡くなった。
「シアマンドはパワーリフティングのパイオニアで、母国のイランはもとより世界中の人々に刺激を与えた存在であり、また、パラリンピック・ムーブメントの最高のアンバサダーでした」
国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドリュー・パーソンズ会長はそう言ってラーマン選手を偲んだ。
「人柄も素晴らしく、気が優しくて力持ち。本当に気さくで親しみやすい人でした」
Today we are remembering Siamand Rahman on his birthday.
— Paralympic Games (@Paralympics) March 21, 2020
Here are both jaw-dropping occasions that he became Paralympic powerlifting champion. Siamand's legacy will live on.
March 21, 1988 - March 1, 2020. pic.twitter.com/UFAx9Mw8pO
パラリンピック史上最強の男に
シアマンド・ラーマンという名が知られるようになったのは、世界最強となったロンドン2012大会だが、道のりはその4年前に始まっていた。
ラーマン選手がパワーリフティングを始めたのは2008年2月、19歳の時だった。2010年にクアラルンプールで行われた世界選手権でシニアデビューし、男子100kg超級で銀メダルを獲得した。
わずか5カ月後のアジア・パラ競技大会で287.5kgの世界新記録を出し、金メダルを獲得。その後も次々と記録を更新し、ロンドン2012大会では280kgを挙げ、同じイランのカゼム・ラジャビ・ゴレジェ選手が持っていたパラリンピック記録を破った。
ロンドン2012パラリンピックで、パラリンピック新記録を出し、金メダルを獲得したラーマン選手
Matthew Lloyd/Getty Images
しかし、何と言っても最大の偉業はリオデジャネイロ2016大会だろう。当時28歳、107kg超級のラーマン選手が300kgに挑戦するのか否か、観客もメディアも固唾(かたず)を呑んで見守っていた。
まず270kgから試合をスタート。そして2回目の試技で300kgに挑戦した。緑のライトが点灯、成功だ。さらにその後、再び登場すると、今度は305kgをしっかりと決める。しかしそれで終わりではなかった。驚くことに、ラーマン選手は4回目、最後の試技で310kgに挑戦することにしたのだ。
完璧に決めた瞬間、リオ中央体育館 パビリオン2に歓声が沸き起こった。
東京2020大会を心待ちにしていた
2019年、東京の象徴的なランドマークを背景に、傑出したパラアスリートに焦点を当てた東京2020キャンペーンビジュアルの最終回にラーマン選手は登場した。
場所は銀座の歌舞伎座。400年以上の歴史を持つ日本の伝統芸能、歌舞伎の殿堂だ。
「この素晴らしいキャンペーンに参加できてうれしいよ。東京2020パラリンピックが待ち遠しい。バーベルと私の勝負、どちらが勝つかな。必ず限界を超えてみせるよ」と、その時、語っていた。
Meet Siamand Rahman, an Iranian powerlifting superstar and the strongest Paralympian in history!
— #Tokyo2020 (@Tokyo2020) October 8, 2019
He has promised to set a new record at Tokyo 2020. #TuesdayMotivation
He is in front of the Kabukiza Theatre in Ginza, home of the artform 'kabuki'.
Culture & Sport #Tokyo2020 pic.twitter.com/7BfVmSGp3U
レガシーを称えて
ラーマン選手が逝去した後、イランパラリンピック委員会はその偉業を称え、植樹を行った。
「シアマンドは礼儀正しく勇敢で、スポーツマンシップにあふれる人物でした。イランのアスリートのお手本でした。誰もがシアマンドの死を惜しむでしょう」
東京2020大会のイラン選手団団長、ハディ・レザイー氏はテヘラン・タイムズ紙にこう語った。
故郷のオシュナビーエには、亡きパラリンピック王者の像が建立された。
ラーマン選手が世界中のアスリートに刺激を与えたことは間違いない。境界を押し広げ、限界を越えて前進するその力は、パラリンピック・ムーブメントとしてはもちろん、スポーツ全体にとって永遠のレガシーだ。