高田千明「障がいを持つ人、何かしたい人の勇気に」 私がSNSで発信する理由

新型コロナウイルス感染症拡大防止のための自粛やステイホームで思うような活動ができないながらも、東京2020大会への歩みを止めることなくトレーニングを続け、SNSで思いを発信しているアスリートがいる。彼らは今、何を考え、なぜ発信し続けているのか。

今回はT11クラス(視覚障がいの部門)のクラスでリオデジャネイロ2016パラリンピック陸上競技の走幅跳と100mに出場、2019年にドバイで行われたパラ陸上世界選手権の走幅跳で4位に入賞し、東京2020パラリンピック出場が内定した高田千明選手に近況やSNSを通じて伝えたいこと、大会への思いなどを語っていただいた。

寄り添いながらチャレンジする姿を伝える

私たちは夫婦で陸上競技に取り組んでいます(夫の裕士選手は聴覚障がい者のための競技大会「デフリンピック」に出場)。障がいが異なり、目指すところはパラリンピック、デフリンピックと異なりますが、SNSを通じて近くの方から海を挟んだ遠くの方まで、多くの方々に自分たちのことを知っていただく機会が増えればいいなと考えています。また、私たちの「今」を見ていただき、自分たちと同じように障がいを持っていたり、何かをしたいと考えていたりする方々の背中を少しでも押せるような機会があればというのが、SNSを始めたきっかけです。メディアを通じてだけでなく、自分たちで今の状況を発信できるのもいいですね。

私は目、夫は耳に障がいがあって、お互いに寄り添いながら、目標としているところに向かって挑戦しています。そして私たちには4月に小学6年生になった息子もいます。子どもにとって両親が障がいを持ちながら、競技に取り組む姿は当たり前のようですし、それは私たちにとっても普通のことです。だからこそ、どんなことでも自分たちがやろうと思って、一歩を踏み出した時点で、できることはたくさんあるよということを伝えて、勇気を持ってもらえればとも考えています。

今を乗り越え、みんなでがんばっていこう

自粛期間が始まった4月には夫婦で手話を交えたメッセージ動画を発信しました。これは手話の通訳をしてくださっている先生から、「今、日本のみならず世界中が沈んで外にも出られず、自分たちは何ができるんだろうと考え直す時間になっている。今までスポーツをパワフルにしていた夫婦から何かメッセージはない?」と話をいただいたのがきっかけです。私は目が見えておらず、夫は耳が聞こえていない状況で2人が同時に話すことはできません。そこで私の声で(夫は手話で)2人の気持ちを伝え、聴覚に障がいを持つ人が見ても何を伝えたいかが分かるようにし、「日本全体がもっと明るく、今を乗り越えてみんなでがんばっていこうね」という思いを伝えました。

見てくださった方からは、「2人の元気な姿を見て安心しました」「みんなが大変な状況だから自分だけと思わず、今やれることをしながら動けるようになったときには、またステップアップできるようがんばろうと思います」といった声をいただきました。少しでも希望を感じていただけたなら嬉しいです。

「楽しみ」見つけること、心掛ける

(自粛期間に入り)競技場などが閉まったことで、練習する場所が一気になくなってしまいました。特に視覚に障がいを持っていると、その変化に対応する力がほかの方より低くなってしまうのが実情です。私は一人で練習しているわけではなく、コーラー(声や音で状況を伝える人)やコーチ、伴走者を務めてもらっている大森盛一さんと二人三脚で取り組んでいます。そのため2人で走っても迷惑にならないような場所を選ぶ必要があります。また私はフィールド競技なので、ロードを走ることはほとんどありませんでした。そのため、普段歩いているくらいでは、気にならないデコボコも、緊張しながら走るためいつもとは違うところが痛くなりました。「ちょっとでも体を動かそう」と思っても、外ではその「ちょっと」が難しいのです。

現在、外でのトレーニングは自宅の近くでやっています。100mほどを走ってまた歩いてという感じで、けがをしないように気を付けています。また家でできることも意識してやっています。ストレッチを重視する。走幅跳をするときに背骨のしなりに足りていない部分があったので、そこを改善する方法などに取り組んでいます。

普段なら私と夫の練習の曜日が異なるため、息子はどちらか片方と過ごすのが基本スタイルでしたが、自粛期間は2人とも家にいるため、息子も混ぜて3人で何かできないかなとストレッチやトレーニングを一緒にやっています。特に心掛けていることは「楽しみ」を見つけること。今まで息子にはどちらかがいないという状況で、寂しい思いをさせることが多かったのですが、今はべったりです。一緒に勉強をしたり、料理をしたり、息子からは「ママがいるのは珍しい」などと言われますが、楽しんでくれているのではないでしょうか。

東京2020大会へ、やるべきことを一つずつ

これから先、自粛が明けたからといって、変わったことをしようとは考えていません。今までも、自分がどのようなパフォーマンスをすれば、上に上がれるのかを常に考えて1年1年、練習してきました。だから今まで通りのスタイルに戻していきながら、やるべきことを一つずつ積み上げていくことに徹したいですね。

もちろんターゲットは来年の東京2020大会です。2021年に延期になりましたが、みなさんが応援に足を運び、目の前で見てくださればいいと感じています。30歳を越えて、どうしても年を追うごとに体力やバネが落ちてしまう現実がありますが、その中でも自分がどうやって1秒でも早く走れるか、1cmでも遠くへ跳べるか、技術面も含めて見直していきたいです。

ちなみに今年掲げた目標は、8月末に行われる予定だったパラリンピックで5mを超える記録を出しての金メダルでした。走幅跳は1回でも5mを跳べば、大きな記録になります。練習できる時間も延びたので、イメージトレーニングや技術トレーニングをして、確実にそこまで持っていけるようにしたいと思います。

東京2020大会の走幅跳で目標とする5mを跳んで金メダルを取りたいと願う高田千明選手
東京2020大会の走幅跳で目標とする5mを跳んで金メダルを取りたいと願う高田千明選手

私の自己ベストは昨年の11月に出した4m69ですが、世界記録は5mを超えています。ただ私が走幅跳を始めて8年近くの間、(パラリンピックなど)大きな大会で5m級のビックジャンプは生まれていません。私は大舞台で自己ベストを更新することが多く、平均的に4m80から90のジャンプができるようになれば、目標とする5mを跳んで金メダルを手にできるのではと青写真を描いています。

走幅跳は真っすぐ、しっかりスピードに乗って助走をした後、踏み切って、空中で着地動作に入り、抜けるところまでの一連の動作が揃っていないと記録が伸びません。リオデジャネイロ2016大会までは助走の一点に絞って練習しました。リオ以降は、井村久美子さん(北京2008オリンピック、陸上競技女子走幅跳に出場)に年に数回、アドバイスを受けながらその年ごとにテーマを決めて、4年でこの流れを完璧なものにしていこうと計画しています。今年のテーマは「すべての動作を噛み合わせて跳ぶこと」。いよいよまとめの段階に入ります。

私はまた100mも専門にしています。走ることについても、大森さんに指導してもらいながら何年もやってきました。「ぶれることなく今まで通り」がキーワードで、毎年少しずつタイムを更新しているので、来年12秒台を出すのが目標です。

一番は「みんなが笑顔で」

改めて来年行われる東京2020パラリンピックは、「みんなが笑顔で迎えられること」が一番だと思っています。観客の方が「見に行っても大丈夫なのか」、私たち選手は「練習できないけど大丈夫なのか」など、不安いっぱいの中で迎えるのではなくて、みんなで盛り上がるものであってほしいです。そして最後は、選手と応援してくれる方々の「心が一つになってよかったね」となることを願っています。

私がSNSで発信する理由

瀬立モニカ「競技を超えてつながりの場に」

岩渕幸洋「東京がゴールではなく、スタートになるために」

富田宇宙「パラリンピックの存在意義を伝えたい」