八木かなえを迷わせた「2kgの重み」と、達成したい「あと1kg」

「いつ引退しても後悔しないような思いで」

ウエイトリフティング女子55kg級の八木かなえは、リオデジャネイロ2016オリンピック以降の4年半を「正直、いつ引退しても後悔しないような思いで競技に取り組んでいましたね」と、穏やかな口調で振り返る。

競技歴わずか4年の20歳で、ロンドン2012大会に出場(12位)。経験を積み、名実ともに女子53kg級における日本の第一人者として臨んだリオ2016大会は、6位入賞を果たした。選手として円熟味が増す20代後半で迎える東京2020オリンピックは、過去2大会を上回る成績が期待されているだけに、「いつ引退しても後悔しないように」という気持ちでいたことは、少々意外だった。

「オリンピックは1番大きな目標として、頭の片隅にはいつもあります。ただ、そればかりを目指していると、目標が大きすぎてきつくなることがあるんです。だから先のことは考えすぎず、毎年ある目の前の大会や、目標としている記録をずっと大事にしてきました」

1日1日、1年1年、やるべきことを積み重ねた先にオリンピックが見えてくる。舞台の大きさは、過去2大会を経験して、十分に理解していた。それだけに日々やり残すことがないくらい全力で競技と向き合い、「その結果、たどり着けたらいい場所」という位置づけにしていたのだ。

初出場だったロンドン2012大会は12位
初出場だったロンドン2012大会は12位

体重区分の変更により、パワーの違いを痛感

ただリオ以降、そうした気持ちで競技に取り組んでいた一方、直面した事態に迷い、苦悩することもあった。その最たる要因は、各階級における体重区分の変更だ。ロンドン2012、リオ2016大会で八木が出場したのは女子53kg級。しかし、その階級が廃止され、代わりに55kg級での再出発を余儀なくされた。

「2018年に全体的に階級が変更されて、女子の他の階級は1kg増だったんですけど、私のところだけ2kg増になってしまったんです。その分、パワーが必要になってきます。私はこれまで技術でカバーしていたのですが、上の階級から降りてきた海外の選手はパワーがあるので、世界的にもそれを生かしたウエイトリフティングに変わっていきました」

たかが2kg、されど2kg。単に体重を増やせばいいというわけではなく、トップレベルに行けば行くほど、その差は大きなものになる。競技に必要な筋力が思い通りにつかず、55kg級で出場した2018年の世界選手権は27位に終わった。

「2kgの重みを思い知らされました。53kg級のときは、オリンピックや世界選手権で順位も上がって、先が見えかけていたんです。でも、55kg級になってからは世界のレベルにどう近づけていくか悩みましたし、私も階級を下げて49kg級にしようかと迷ったこともありました」

体重区分が変更になって以降、「2kgの重み」を思い知らされた
体重区分が変更になって以降、「2kgの重み」を思い知らされた
(公社)日本ウエイトリフティング協会

「この1kgを更新できたら、やり切ったと感じられる」

そうした葛藤を抱きながらも、八木は一歩一歩前に進んでいる。55kg級で出場した昨年12月の全日本選手権では、53kg級時代も含めて6年連続となる優勝を果たした。東京2020大会の代表メンバー入りにも着々と近づいている。

「世界で通用する選手ではなかったのに、必要以上に注目され、プレッシャーを感じていた」のがロンドン2012大会。社会人となって迎えたリオ2016大会は、結果を出すだけではなく、「ウエイトリフティングを広めたい」という思いも抱いて臨んだ。

「もともと注目されるのはあまり好きじゃなかったんです。でもALSOKに入社して、レスリングの伊調馨さんや、さまざまな競技のトップ選手と交流していくうちに、自分が好きな競技を広めようとしている姿は『素敵だな』と感じるようになりました。ウエイトリフティングに出会ったからこそ今の自分があるし、その競技に対して恩返しをしたいと思い始めてからは、注目されるのもうれしくなりましたね」

そうした過去2大会を経て、出場が決まれば3度目となる大舞台では「これまで支えてきてくれた方々のためにも、一番良い記録と一番良い順位を狙っていきたい」と力を込める。現在の自己ベストはスナッチが87kg、クリーン&ジャークが112kgで、トータルは199kgだ。

「あと1kgで200kgなんです。以前から目標にしていた数字で、なかなかそこに到達できていないんですけど、この1kgを更新できたら、自分でも『やり切ったな』と感じるんじゃないかと思います」

八木はそう語って、朗らかに笑った。

トータル200kgを達成できたら「自分でもやり切ったと感じられる」
トータル200kgを達成できたら「自分でもやり切ったと感じられる」