ソフトボール日本代表 宇津木麗華監督 福島から勇気ある姿を「全力で金メダルを取りに行く」

ソフトボール日本代表を率いる宇津木麗華ヘッドコーチ
ソフトボール日本代表を率いる宇津木麗華ヘッドコーチ

北京2008で金メダルを獲得したソフトボールが3大会ぶりにオリンピックに帰ってくる。復興オリンピックの象徴として、競技は2021年7月21日に福島あづま球場から開始。金メダリストのエース上野由岐子、山田恵里主将が中心となり、東京2020大会でも頂点を目指す日本代表を率いるのは、自身も日本の主砲としてオリンピックに2度出場し、シドニー2000で銀、アテネ2004で銅メダルを獲得した宇津木麗華ヘッドコーチだ。世界一になるための戦略、上野投手への信頼、福島開催の思いなどを伺った。

明るい雰囲気の日本代表合宿。エースの上野由岐子も笑顔
明るい雰囲気の日本代表合宿。エースの上野由岐子も笑顔
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合宿では「元気よく明るく楽しく!」

東京2020オリンピックへの強化合宿が再スタートしました。雰囲気はいかがですか。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、選手たちはストレスがたまっていると思いましたので、「元気よく明るく楽しくやっていきましょう」と。今までにないくらい明るい雰囲気でできています。選手同士で話をすることも多くなり、若い選手もやりやすいと思います。それと、監督が出したメニューだけで練習するのではなく、上野たち先輩からこういうふうに練習した方がいいんじゃないかという意見も出て、それもいいですね。

合宿での手応えや、逆に課題に感じられた所は。

チームで一緒に練習できたことで、選手たちが目の前に見える安心感がありますね。所属チームでもやるべきことを忘れず準備してきてくれましたし、オリンピックへの使命感もすごく感じました。一方で、チームとして戦略上の課題は、ゲーム勘が足りないことです。ソフトボールは相手のあるスポーツですから、相手に勝つための練習が必要です。選手一人一人の性格も試合の中で見えてくるものですし、今の日本代表メンバーでオリンピックを経験しているのは上野と山田と峰(幸代)だけ。他の若い選手が、大きな大会、しかも日本でやるオリンピックでどれくらいやれるのか、不安はあります。練習と試合、大きな大会では全然違います。例えば、上野は打たれたとしても余裕があるんですよね。「このボールは、このバッターにはこういうふうに打たれるんだ」と分析できる。でも若い選手は、打たれるとおどおどしてしまう。実戦経験のために5月、6月に可能なら各国とゲームができればと願っています。

ポジションごとの強化ポイントは

・投手について

上野と藤田倭の両エースが日本の要になります。2人に関しては、私が監督としてやってきたソフトボール、「勝つ戦略」に沿ってできる選手ですね。濱村ゆかり、尾﨑望良には、自分が出せる能力を見せてほしいという話はしています。若い勝股美咲、後藤希友には変化球を勉強させています。海外の選手には真っすぐだと、120 km、110 kmでもマシンのように打たれます。特に後藤は日本の中ではスピードのある方ですが、左ピッチャーなので将来的なことを考えればライズボール(打者の手元で浮き上がるように変化する球)が必要。彼女は低めに投げるタイプですが、低めに関しては、バッターはバットを下ろすことは簡単なので当ててくる。海外の180cmを超える選手にもライズボールを投げられるように一生懸命強化しています。

ライズボールを強化している若手左腕の後藤希友
ライズボールを強化している若手左腕の後藤希友
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・捕手について

正捕手として強化してきた我妻悠香には、ピッチャーが一番いいボールを自信持って投げられるような配球をしてほしいと思っています。ただ、勇気がないと配球に迷ってしまう。ですから常に、こういうふうにやろうよとアドバイスをしています。峰は上野のボールをずっと捕ってきたし、その後、藤田ともバッテリーを組んでいるので、配球など暗黙の了解があります。安心できますね。もう一人の清原奈侑は、能力は高いですが、上野と藤田と組んだことがないので、練習や試合などでできるだけ組ませるようにしています。

・内野手について

内野は力のある選手が多いですね。今は、昨年までの反省で、セカンドを重視して強化しています。アメリカの選手は身長があって叩くバッターが多く、叩かれると打球がすごく速いので、肩がないと、なかなかジャンピングで投げられない。川畑瞳は若くて(24歳)力溢れている感じがしますし、肩もよく、バッティングの勢いもある。市口侑果は肩が少し弱いですが、捕って連続動作ですぐ投げるような、能力を生かす動き方、技術を教えています。日本の守備は世界一だと自負していますし、自信を持っていいと思います。

・外野手について

外野は何といっても足と肩の勝負ですね。レフトの山崎早紀、センターの山田、そしてライトの原田のどかの3人が中心ですが、打つ方でも守備でも日本一の外野手だと思いますし、世界でもトップレベルです。山崎と原田は守備範囲が広いので、それを生かしてカバーしながら、いい守りができると思います。

世界でもトップレベルの外野陣。山田恵里主将の勝負強さにも期待
世界でもトップレベルの外野陣。山田恵里主将の勝負強さにも期待
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勝利のカギは守備とホームラン

バッティングについてはいかがでしょうか。

長年ソフトボールの大会を経験して感じるのは、ヒットを3本連続して打つのは難しいということです。ホームランで勝敗が決まる試合が80%以上。そう考えたらやはりホームランですよね。そのために日本も今、長打力をつける練習をしています。あと、相手投手も考えてくるので、もし私が相手の監督だったとしたら今までのデータを見て、こういうふうに投げさせるかもしれないと考えて、選手たちには逆から配球を読む練習もさせています。

勝利のカギは「ホームランと世界一の守備力」と語る宇津木ヘッドコーチ
勝利のカギは「ホームランと世界一の守備力」と語る宇津木ヘッドコーチ
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宇津木ヘッドコーチの考える「勝つソフトボール」とは。

自分の戦略の中で、何が第一かと言うと、それは守備です。ピッチャーから始まる守備で、最少失点、ゼロで守る。打てるなら苦労はしないのですが、相手投手のレベルが高いときでも勝つためにどうするか、やはり守備をしっかりやっていくことですね。例えば今、新型コロナで相手のチーム状態が見えない状況であっても、我々の守備が100%、200%ならば、試合でもミスは出ないでしょうし、相手がどうであっても勝てると思います。

オリンピックの戦い方のポイントはどのあたりでしょうか。

勝つためにはやはりピッチャーです。ホームランを打たれると負ける可能性が高い。私がいつも上野に言うのは、例えば3番4番5番と3つフォアボールで歩かせても、3三振を取れば勝てる。でも、そこでホームランを打たれたら4点取られる。ソフトボールは金属バットでボールも飛びますし、グラウンドもそんなに広くない。どうやってホームランを打たせないか、どうやってホームランを打つか、この夏にお互いがどれだけ強気で挑んでいけるかだと思います。

上野とともにエースとして期待される藤田倭
上野とともにエースとして期待される藤田倭
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「世界一になる戦略」にぴったりはまるのが上野

上野投手へはやはり特別な思いがありますか。

そうですね。彼女が高校生のころから20年間ずっと一緒にいますし、信頼は一番あります。彼女は、意外性がある選手なんですよ。打たれるときもあれば、大事なゲームでは、相手が誰であろうが、普通に投げて勝つ。国内リーグの開幕戦は4回6失点、でも決勝では14奪三振を取って完封と完璧なピッチングを見せました。それは彼女しか持っていない能力です。普通に勝つではなく、世界一になるための監督の戦略にぴったりはまるのが上野なんです。

金メダルピッチャーの上野には一番の信頼を寄せている
金メダルピッチャーの上野には一番の信頼を寄せている

ゲームが福島で始まるのは幸せなこと

東京2020大会は福島から始まりますね。

いろんな方々に応援していただいて我々は今、こうしてスポーツができています。何のためにスポーツをやっているのか、そして応援してくださる方々に何を返せるだろうと考えたときに、試合で勝つことだけでなく、自分たちの勇気ある姿や元気な動きを見せて、「スポーツって楽しいよ、生きることってすごく楽しいことだよ、だから楽しみましょう」と伝えていくことだと思っています。そういう意味では、ゲームが福島で始まること、福島の皆さんに目の前で元気に戦う姿をお見せできるのは、とても幸せです。

先日、あるテレビ番組でデザイナーのコシノジュンコさんが「運動とは『運が動くこと』」とおっしゃっていて、すごいと本当に感動して、我々も前向きに、「運が動くよう」にやっていこうと選手たちにも伝えました。「一流の選手ってなんだろう」と上野ともよく話しますが、その人が持つ能力で多くの方に感動を与えられることじゃないかと。皆さんの前で、それを全力で表現したいと思います。

最後に、東京2020大会への抱負をお願いします。

我々自身も最高のメダルを取りたいですし、日本の皆さんも同じ思いでいてくださっていると思います。私たちにとっては一生に一回のチャンスかもしれない東京でのオリンピック、全力で金メダルを取りにいきます。

「日本の皆さんに感動を与えるために金メダルを」
「日本の皆さんに感動を与えるために金メダルを」
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