土性沙羅 けがを乗り越え自分らしく「やっぱりタックルで勝ちたい」

リオデジャネイロ2016大会で金メダルを獲得した土性沙羅。東京で連覇を狙う
リオデジャネイロ2016大会で金メダルを獲得した土性沙羅。東京で連覇を狙う

東京への出場権獲得も影を潜めたタックル

「負けたら、自分のレスリング人生を終える気持ちでした」

リオデジャネイロ2016オリンピックで、日本女子レスリング史上初の重量級金メダルに輝いた土性沙羅(69kg級)は東京2020大会代表選考プレーオフを振り返り、そう語った。

優勝すれば代表内定だった2019年の全日本選手権準決勝、森川美和に2-9の大差で敗れ、8連覇中だった全日本のタイトルを逃した。代表内定は2020年3月のプレーオフまでお預けになった。

東京へのラストチャンス、プレーオフは森川との一騎打ち。土性の傍らには登坂絵莉と川井梨紗子がいた。セコンドとしてついてくれたのだ。

「心強かったです。オリンピックを一緒に経験して金メダルを取った2人だったので、『落ち着いてしっかり』と声をかけてもらって、安心して戦えました」

2人に励まされながら土性は6分間を戦い抜き、東京2020大会への切符を勝ち取った。

出場が内定して安堵(あんど)した。それでも完全に納得できたかというとそうではなかった。「プレッシャーをかけ、相手がタックルに来たところでカウンター」という戦術ははまったが、持ち前の「重量級タックル」は影を潜めた。タックルに行けなかったのは、「怖さ」があったからだ。それはリオ後に負った幾度のけがのためだった。

得意の「左からの重量級タックル」を支える左肩と左膝が限界に
得意の「左からの重量級タックル」を支える左肩と左膝が限界に

限界に達していた左肩と左膝

土性が金メダルを手にしたのは、大学4年生のとき。次は東京、21歳の土性はリオが終わるとすぐに「またオリンピックに出たい」と連覇を目指して走り出した。しかし、自信とやる気の一方で体はかなり疲弊していた。特に、得意とする「左からのタックル」の肝である左肩と左膝には相当な負担がかかっていた。そして2018年3月のワールドカップ国別対抗団体戦で、脱臼を繰り返していたその肩がまた外れ一気に悪化した。

「東京オリンピックに絶対出たいという気持ちがあったので、肩をしっかり治してまた思いっきりレスリングをしたいと手術に踏み切ったのですが、開けたら思ったよりひどくて、『よくこの状態でレスリングしてたな』って言われました」

4月に手術し、約5カ月間レスリングから離れた。そんなに長くマットに立てなかったのは小学生でレスリングを始めて以来、初めてのこと。「日本のレスリングの強さは練習量にある」と常々話している土性は練習ができないことに焦り、「もうレスリングができないかもしれない」と落ち込んだ。それでも「下半身を鍛えてパワーアップして戻ろう」と自分に言い聞かせ、なんとか乗り切った。

しかし翌2019年、今度は左膝が悲鳴を上げた。全日本選手権の直前の11月、内出血で真っ赤になり腫れた。マットにつくと痛みもあった。そんな状態ながら全日本選手権には痛み止めを打ちながら出場したが、オリンピック代表内定を勝ち取ることができず、「3月のプレーオフまでには完治しないだろう。無理のない方法でやるしかない」。代表選考戦でタックルが出せなかったのは、そのせいでもあった。

タックルに入るのが怖い

東京2020大会の出場を内定させて間もなく大会の1年延期が決まった。痛めた左肩と左膝は徐々に回復し、ほとんど支障なく動けるようになってきたものの、心の不安はなかなか消えなかった。

「肩が何回も外れる経験をしているので、前みたいにタックルに入ることに躊躇(ちゅうちょ)してしまう。行こうとしても頭の中でストップしてしまうんです」

いっそのこと自分のプレースタイルを変えようかとも考えた。それでも、脳裏にあるのは、果敢にタックルで攻めて金メダルを取ったあのリオの自分。「やっぱり自分はタックル。そこに戻ろう」と思い直した。

オリンピックイヤーとなり、大会が近づくにつれ、心にも少しずつ変化が表れてきている。

「最近ようやく怖さを克服できてきて、だんだんタックルにも入れるようになってきたんです。やっぱり自分の武器はタックルなんだな、って改めて感じています。大会までに万全の状態にして、東京でもタックルで攻めて勝ちたいです」と、笑みをのぞかせた。

出場を逃した尊敬する先輩、登坂のためにも

オリンピック連覇への思いを強くする理由がもう一つある。先輩、登坂の存在だ。登坂と土性はともに吉田沙保里さんに憧れ、至学館高校・大学に進み、同じ所属先に入った。しかし、どちらかというと自分に甘い土性に比べ、登坂は毎日、全体練習が終わってからも一人残って練習を続けるほど自分に厳しかった。

違いが最初に結果として表れたのが、2013年の世界選手権。登坂は金メダルを獲得したが、土性は銅メダル。「世界チャンピオンになるにはあれだけ努力しなきゃいけないんだ」と気づかされた。そして、「一緒にトレーニングさせてください」と登坂に志願した。くじけそうになったときにはいつも厳しく叱ってくれた。けがでレスリングを諦めかけたときにも支えてくれた。プレーオフでもセコンドとして励ましてくれた。「また一緒に東京オリンピックに出て金メダルを取ろうね」と話していたその尊敬する登坂が、東京2020大会には出られない。登坂の分まで頑張る、そう決めた。

「絵莉さんのおかげで自分は変われたんです。それは間違いない。だから絵莉さんのためにも金メダルを取りたい」

リオでともに金メダルを獲得した登坂絵莉(左)のためにも頑張ると誓う土性(右)
リオでともに金メダルを獲得した登坂絵莉(左)のためにも頑張ると誓う土性(右)

強くなった姿で連覇を

2019年の世界選手権で5位に終わり国内でも負けを経験した。さらに大きなけがもした。

「リオの頃はチャレンジャーでどんどん行けたけど、今はそうじゃない。でも、けがの苦しさを乗り越えて、本当にいろんな経験をしてきたから強くなれていると思います。レスリングも勢いだけで行くのではなく、駆け引きなど考えながら戦うこともできるようになりました」

2連覇は決して簡単なことではない。それでも、応援してくれる人たちのためにも努力して勝ち取りたいと土性は誓う。代名詞であるタックルを決め、戦術的にうまさの増した、自分の新しいレスリングも見せて。

リオのようにタックルを決めて、2つ目の金メダルを
リオのようにタックルを決めて、2つ目の金メダルを