女子日本代表 馬場美香監督が考える「打倒中国を果たすためのカギ」

「東京2020大会では全種目でメダル獲得」と意気込む卓球女子日本代表の馬場美香監督
「東京2020大会では全種目でメダル獲得」と意気込む卓球女子日本代表の馬場美香監督

日本のエース、世界ランキング3位の伊藤美誠、団体戦でロンドン2012大会は銀メダル、リオデジャネイロ2016大会では銅メダルを獲得した石川佳純。2017年の世界選手権で日本勢として女子シングルス48年ぶりのメダルとなる銅メダルを獲得した平野美宇。その3選手を擁し、東京2020大会では全種目でメダル獲得をと意気込む卓球女子日本代表を率いるのが馬場美香監督だ。日本代表候補3選手の強みや東京2020大会で打倒中国を果たすためのキーポイントなどを伺った。

国際大会で課題を確認できたことは収穫

8カ月ぶりの国際大会、ワールドカップとITTFファイナルの感想をお聞かせください。

大会が始まる前の隔離期間が長かったということで、全選手について、実力より少しプラスあるいはマイナスがあるだろうと考えています。国際大会が行われたことについては、非常に良かったと思っています。しばらく試合をしていなかった日本選手にとっても、世界の選手と対戦して、自分が今どの辺にいるのかという実力がわかり、課題がどの程度克服できているかを試合で試せたこと、戦ってみてどんな課題があるかを理解できたのはすごく良かったと思っています。また、隔離や検査など新型コロナウイルス感染症対策が行われている中での国際試合を経験できたことは、非常にプラスだったと思います。

そんな状況の中で、伊藤選手はワールドカップで銅メダルを獲得しました。

隔離が長かったので心配していましたが、いざ試合が始まったら、あまり気にならないような戦いぶりをしてくれたので良かったです。銅メダルという結果は、伊藤選手としても、予想の範囲だったと思います。成績の結果よりも、試合内容や課題にしている部分がどれだけできたかがある意味一つの目安になります。国際大会がしばらくなかった中で、ある程度、実力を出せたと思いますので、監督としてはホッとしています。

8カ月ぶりの国際大会、ワールドカップで銅メダルを獲得した伊藤美誠
8カ月ぶりの国際大会、ワールドカップで銅メダルを獲得した伊藤美誠
(c) ITTF

新しいサーブを試したり、バックのレシーブにも積極的でした。

彼女は常に新しいサーブを開発していて、毎大会、工夫して試しています。バックへのサーブに対するレシーブに関しては強化している部分でもあります。中国は伊藤選手を非常に分析して、どこをどういうふうに攻めるかといったことを徹底して行ってきます。それに対して、うまくいった部分もありますし、うまくいかなかった試合もあったという感じでしょうか。今後両ハンドの技術がもっと高度なレベルに上がれば、相手にとってさらに脅威になってきますし、レシーブの技術も高めていければ、もっともっと中国の選手と競ることができ、勝つチャンスが増えてくると思います。

石川選手についてはどう見られましたか。

ワールドカップで、カット選手(相手の攻撃に対してバックスピンをかけて戦う守り中心のプレースタイル)である韓国のソ・ヒョウォン選手に良い戦い方をして勝ち、次のITTFファイナルでは同選手に敗れました。2戦連続ですと、相手も戦術を変えてきたり負けて元々という気持ちで来ますし、石川選手は勝てるかもという思いで戦ったと思うので、そういう気持ちの部分についても課題として見えてきたと思います。ワールドカップでは初戦を勝ち、次に中国の孫穎莎(そん えいさ)選手に敗れました。勝ったことは自信として、敗れたときにはどの調整がうまくいかなかったのか、試合の中でどこがうまくいかなかったのかを理解すること。そして課題を今後強化していけば、次はよりポイントが取れる、いい勝負になる、1ゲーム取れる、勝利できる。負けたとしても、自分にとってプラスにしていけるような気持ちの持ち方をしてもらえれば、今後に生かせると思います。

国際大会に出場し、東京2020オリンピックに向け再スタートを切った石川佳純
国際大会に出場し、東京2020オリンピックに向け再スタートを切った石川佳純
(c) ITTF

中国もレベルアップしている

中国についてはどんな印象を持たれましたか。

2020年8月に中国は東京2020オリンピックの仮想大会を行っていました。その試合を見たところ、やはり中国は、ライバル選手や伊藤選手と対戦して苦戦したり、敗れたときに次にどう戦ったらいいかを考え、うまくいかなかったところを非常に強化してきている印象です。日本の選手もレベルアップしていますが、中国の選手もレベルアップしていると感じています。2019年の世界選手権チャンピオンの劉詩雯(りゅう しぶん)選手が新型コロナウイルス感染症拡大後、一切試合に出ていませんので、それ以外では、陳夢(ちん む)選手と王曼昱(おう ばんいく)選手は技術、メンタルの部分で非常に変わった印象を受けました。卓球がより速くなり、相手に与える時間も少なくなりました。新しいサーブも繰り出していて、どうしたら今の卓球スタイルをより完成度の高い状態に持っていけるかと常に向上を図っていることがうかがえます。

ワールドカップ、ITTFファイナルを制した陳夢(左)、進化を見せた
ワールドカップ、ITTFファイナルを制した陳夢(左)、進化を見せた
(c) ITTF

伊藤、石川、平野の「強み」

その中国に立ち向かう日本代表候補選手ですが、改めて強みと強化している部分を教えていただけますか。

・伊藤美誠選手

彼女の大きな特徴として、どんな試合でもあまり緊張しているところを見たことがありません。東京2020オリンピックは非常にプレッシャーのかかる試合だと思いますが、そのような大きな大会でも緊張せずに試合をワクワクして待ち望めるという強みがあります。もう一つは どんなに接戦で劣勢な状況にあっても、自分の技術をより厳しく相手に繰り出していくことができます。だから中国に多く勝つことができる。そこは彼女の素晴らしいところだと思います。多彩な技術を持っていて、何をするかわからないと相手が不安になるように、一つのボールに対していろんな捉え方、いろんな技術を持って返球することができる。ずっと見てきて思うのが、彼女は、大会が終わるごとに自分で見つけた課題を克服するためにより良いものを求めてすごく努力する。そして、次の大会に臨んで、それを試してみて、また課題を見つけて、それを克服して、また試合で出す。そういった繰り返しの中で大会ごとに成長しています。そういう姿は非常に優れていると思います。

多彩な技術でさまざまな攻撃を繰り出す伊藤
多彩な技術でさまざまな攻撃を繰り出す伊藤
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・石川佳純選手

大きな国際大会に何度も出場しているので、経験が非常に豊かというのが一つ挙げられます。オリンピック、世界選手権といった大会でどのような戦い方をすればよいか知っているので、安心して戦いを任せられる。また、競った試合や劣勢の苦しい状況でも、気持ちを高ぶらせ、勇気をふりしぼって力を発揮することができる、そんな能力を持っているところです。良い例が2018年の世界選手権団体戦、韓国・北朝鮮統一チーム「コリア」との準決勝。カット型のキム・ソンイ選手を相手に、苦しいシーソーゲームになり、最終ゲームもデュースの連続で、相手のボールが何度もエッジボールやネットインになる中でもメンタルを崩さずに我慢して、気持ちを強く持って粘り勝ちしました。この試合が勝負というところで力を発揮する。石川選手の強みが表れた試合だったと思います。技術的なところでは、左利きの特徴であるフォアハンド3球目攻撃と連続攻撃が非常に優れています。

豊富な経験と逆境での強さが光る石川
豊富な経験と逆境での強さが光る石川
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・平野美宇選手

彼女の試合や練習を見ていると、基礎的な技術のレベルが高いと感じます。監督に就任して初めて彼女の練習を見たときに、1球1球打つボールの質の高さと捉え方のレベルの高さに驚かされました。特にバックハンド技術は、回転、スピード、そして打球点の早さに優れていて、非常に質の高いボールを繰り出すことができる。世界でもトップレベルの素晴らしい技術を持っています。現在はそれらの技術を試合の中で素早く微調整しながら得点に結びつける課題に取り組んでいます。また、一昨年はダブルスでも大きな進歩が見られました。ダブルスのレシーブ技術と攻撃力の向上で相手ペアに脅威を与え、国際大会でも良い結果を出しました。そして彼女には2017年のアジア選手権で中国のトップ選手を3連続で破ったり(リオデジャネイロ2016女王の丁寧(てい ねい)、朱雨玲(しゅ うれい)、陳夢)、同年の世界選手権でシングルス3位になったりと爆発力があります。東京2020オリンピックでも彼女の爆発力に期待しています。

技術の高さが魅力。爆発力にも期待の平野
技術の高さが魅力。爆発力にも期待の平野
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「選手が納得して進むこと」が大事

リオの後から日本代表を指導されていますが、監督として指導で一番心がけていることは何でしょうか。

まず基本の考え方としては、技術の話をするときには「本人が納得してやる」ことを前提として話します。選手からも話を聞きますし、例を挙げたりデータを出して「こういう状況だからこうするともっと良くなると思う」という感じで話をします。納得したら選手は自ら進んでいきますので、その進みを後押ししたり、困った状況になったときには、何に困っているのかを見つけてあげたり聞いたりしながらフォローしてあげることが重要だと考えています。2016年に監督になった頃は、伊藤選手と平野選手は15、6歳でしたが、今は20歳で考え方も大人になって成長してきていますので、指導を変えていく必要がありますし、また選手を理解していく中で内容を変えていくこともあります。こういう考えのもと、選手とこういう接し方をして選手のここをこう伸ばしていきたいという根本的な部分はあまり変わっていませんが、監督としての経験を積んでいく中で、こういう状況のときにはこういう言葉がいいかもしれないといったふうに少しずつ勉強しながら声掛けも変えています。選手と共に成長していくというのが大事ですね。

選手と共に成長していきたいと語る馬場監督
選手と共に成長していきたいと語る馬場監督
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スタートダッシュし、全種目でメダル獲得

東京2020大会ではどのような戦いをしたいですか。

東京では、シングルスでも混合ダブルスでも団体戦でも、全ての種目においてメダルを獲得することを目標にしています。女子はオリンピックにおいて個人種目でまだメダルを取っておりません(編注:シングルスの最高位は4位)。ぜひ一つでも多く日本卓球界の悲願でもある打倒中国を果たし、メダルを取りたいと思います。

中国に勝つためのカギとなるのは何でしょうか

打倒中国を果たすには、全ての試合においてスタートダッシュをかけられるかが非常に大事になると思います。また、対戦相手をよく理解して相手によってどのような戦い方をするか、どのような技術が必要かを練っていく必要があります。そのために課題は強化して克服し、良い部分はさらにプラスしていかなければなりません。団体戦では第1試合のダブルスがカギになると思います。勝てば、中国にプレッシャーを与えることができます。1点取れれば、エース同士が当たる(編注:第2試合はダブルスに出なかった選手が戦うことになっており、その選手はシングルスの2試合に起用される)ときに日本は有利に試合に臨めます。ダブルスでは、1+1が2になる(2人のシングルスの実力をただ合わせる)のではなくて、ダブルスだからこそ出せるプラスアルファの力を練習で磨いていき、オリンピックの試合で発揮したい。そして全ての試合をチーム一丸となって戦い、打倒中国を目指します。

ダブルスで勝利し勢いをつけて、打倒中国を
ダブルスで勝利し勢いをつけて、打倒中国を
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