全日本空手道選手権大会からみる「コンタクトスポーツ」の感染症対策

日本武道館で開催された「天皇盃・皇后盃第48回全日本空手道選手権大会(個人戦)」
日本武道館で開催された「天皇盃・皇后盃第48回全日本空手道選手権大会(個人戦)」

2020年12月13日(日)、日本武道館にて、全日本空手道連盟(以下、全空連)主催の天皇盃・皇后盃第48回全日本空手道選手権大会(個人戦)が行われました。

他者との直接接触が避けられない「コンタクトスポーツ」の競技大会における新型コロナウイルス感染症対策について、主催・運営を担った全日本空手道連盟の理事で事務局長の日下修次氏と、今大会の運営担当者を務めた岡﨑紀創氏にお話を伺いました。

プロフィール

日下 修次

公益財団法人 全日本空手道連盟 理事・事務局長

岡﨑 紀創

公益財団法人 全日本空手道連盟 指導普及課

今考えられる万全の準備・対策を講じて大会を運営

全空連では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年春からすべての大会が中止・延期を余儀なくされました。その後、徹底した感染防止対策を実施しながら同年9月には講習会や段位審査会が行われ、10月には関東と九州で学生大会を開くことができたといいます。そして12月13日、東京2020大会と同一会場である日本武道館で、全日本空手道選手権大会を開催することとなりました。

日下 修次 理事・事務局長
日下 修次 理事・事務局長

日下氏「政府、スポーツ庁および上部団体が発行しているガイドラインをもとに、『練習再開』、『講習会・研修会』、『大会実施』という3パターンのガイドラインを全空連独自に策定しました。政府やスポーツ庁など統括団体の指示に従いながら、空手の競技特性を踏まえて作ったものです。これに加えて、全空連独自の『コロナ対策マニュアル』も作り上げました。これらすべてを遵守して講習会や学生大会を安全に開催できたことで、今回の全日本選手権開催には自信を持って臨めましたし、もちろん今考えられる万全の準備・対策をして今大会を運営しました」

具体的には、約30台の大型扇風機を会場内に設置して換気を徹底し、審判員席や記者席、昼食会場の休憩室といったすべての机上に飛沫感染防止のためのアクリル板を設置。入場時の手指消毒徹底だけでなく、2カ所ある会場入り口にはAIサーモカメラによる検温装置をそれぞれ設置することで、モニタリングも強化しました。

また、アスリートを含むすべての大会参加者に対して、大会前14日間の検温と体調チェック・提出を義務づけたほか、今大会では観客へのコミュニケーションにも力を入れたといいます。

日下氏「会場である日本武道館の収容人員は約1万人。今大会では、観客席を減らしてチケットを販売し、自由席エリアでも1席ずつ空けて着席いただくために、座席背もたれに『着席禁止』の貼り紙をしました。試合当日の観客数は約2,400人、収容率は約25%となりました」

岡﨑氏「観客にはマスク着用を促すように館内放送をしたほか、座席などでのフィジカル・ディスタンスの確保も呼びかけました。大会後の対策として、万が一大会後14日間以内に発熱があった場合は全空連に連絡を入れていただくよう要請し、自由席エリアにおいては、着席された座席番号を控えることもお願いしていました。これは陽性者発生時の対応として、日本国内のプロスポーツ大会で導入されているルールのひとつです。今大会を運営していくにあたっては、さまざまなプロスポーツの大会運営の知見を参考にして計画を進めました」

アスリート同士の直接接触が避けられない「コンタクトスポーツ」ならではの対策の検討・徹底

全空連では、コロナ禍での大会開催に際して、「気合いの声出しをしてはいけない」など、従来の競技運営とは全く異なる厳格なルールを設けていました。しかし、空手というスポーツの特性を生かした大会運営を求めるアスリートや関係者からの声を踏まえ、今大会では、頭部および鼻・口元を覆う防具「メンホー」とマウスシールドの双方着用をアスリートに義務づけることで、気合いの声出しを認めました。「メンホー」は高校生以下のジュニア大会では従来から着用が義務づけられているもので、アスリートにとっては違和感の少ない対策だったようです。

試合中の着用が義務づけられた「メンホー」
試合中の着用が義務づけられた「メンホー」
写真提供:全日本空手道連盟

さらに空手は、マットコート上に素足で試合を行います。アスリートが気合いの声出しを行う際の飛沫がマットに付着し、それが足などを介して拡散する感染リスクが考えられます。

マットコートの消毒を徹底
マットコートの消毒を徹底
写真提供:全日本空手道連盟

岡﨑氏「今大会では、マットコート消毒のためのインターバルを、競技の合間に約10分間設けました。一日を通して3回の消毒作業を行うことで、マットコートを介した感染リスクの軽減を図りました。同じく『コンタクトスポーツ』であり、2020年10月に講道館杯を開催した全日本柔道連盟とも綿密に情報交換をしながら対策を練っていきました」

そのほかにも、アスリートと関係者、メディアの動線を明確に分け、審判員にはフェイスシールドとマスクの双方着用を義務づけるなどの対策を取り入れ、できる限り従来の競技運営に近い形式で試合を行うことができたそうです。

新型コロナウイルスと共生しながらスポーツ大会を実施すること

全空連では、「『正しく恐れ』万全の対策のもとに油断なく事を運べば、新型コロナウイルスと共生しながら大会を実施できる」を心のスローガンに、しっかりと情報収集・対策の検討を積み重ね、万全に対応を行ってきたといいます。

日下氏「できるだけいままで通りにアスリートたちが競技に臨めるように歩み寄りながらも、感染対策を最優先に考えていきました。屋内スポーツであることも含めて、相当に神経を使いました」

岡﨑 紀創氏
岡﨑 紀創氏

岡﨑氏「日本国内ではプロスポーツが先んじてイベント・大会を行っていたので、さまざまな情報や知見を共有していただきながら今大会を開催・運営できたと思います。それでも準備期間は探り探りやっていて、果たしてこの対策方針が正解なのかが分からない。突き詰めても突き詰めても終わりがないというのが難しかったですね。もちろん今大会の知見は少なからず生かすことができると思いますが、次の大会や東京2020大会に向けては、改めてその時々の状況を踏まえて一から対策方針を作り上げていく必要があると思っています」

最後に、今大会を開催・運営する中で最も印象に残ったことや感じたことをお聞きしました。

岡﨑氏「大会を運営する側として今回一番心に響いたことは、大会開催3日前に開いたオンライン記者会見で、植草歩選手が『こうして試合ができること、大会を開催・運営してくださる関係者の方たちに心から感謝します』という話をしてくれたことです。その言葉を聞いて、この大会を絶対に安全に運営しようと改めて思いました。これはもちろん今大会に限ったことではなく、他の競技においても、2021年の東京2020大会においても、アスリートが全力を尽くす環境をつくることが主催・運営者の使命だと、再認識しています」

日下氏「今大会を終えて、『正しく恐れ』、万全の感染対策をもって臨めば、東京2020大会も実施できると感じました。明るい話題が少ない今だからこそオリンピック・パラリンピックを開催して、『未知のウイルスと共生しながら日常を取り戻していくんだ』という気概を日本や世界中の人類が示すのには、非常に大きな意味があると思います。新型コロナウイルスに勝つ・倒す・戦うということではなく、共生しながら大会を実施する方法を考えていく。これが今のスポーツに求められている役割だと考えています」

きめ細かな情報収集や関係団体との緊密な連携、そのときどきの感染状況やウイルスに関する知見を踏まえて、考えうる万全の対策を講じる。全空連の徹底した対策のもとで今大会は運営されました。

東京2020組織委員会でも、今大会で得られた知見・課題を活用しながら、2021年の東京2020大会に向けて、万全の対策・準備に取り組んでまいります。

大会概要

名称: 天皇盃・皇后盃 第48回全日本空手道選手権大会(個人戦)

開催日時:2020年12月13日(日)

主催:(公財)全日本空手道連盟

会場:日本武道館(千代田区北の丸公園2-3)

出場選手数:105名

競技種目:男子・女性組手個人戦、男子・女子形個人戦