予想困難な優勝争いにオーバーエイジ枠 男子サッカー、W杯と異なる楽しみ方

オリンピックにおける男子サッカーは、年齢制限に上限がある競技の1つだ。バルセロナ1992大会から出場資格が23歳以下となり、アトランタ1996大会からは24歳以上のオーバーエイジ選手を3名まで加えられるようになった。男子サッカーにおける最高峰の大会がFIFAワールドカップ(W杯)であることは世界の共通認識だろう。しかし、オリンピックにはW杯と異なる面白さがある。それが「予想困難な優勝争い」と「オーバーエイジ枠の存在」だ。

どの国にも優勝のチャンスがある

1930年にウルグアイで第1回大会が開催されたW杯は、2018年のロシア大会で21回を数える。しかし、オリンピックと並ぶ世界最大の祭典である同大会を制した経験を持つ国は、わずか8カ国しかない。ブラジルの5回が最多で、イタリアとドイツ(西ドイツ時代も含む)が4回、ウルグアイとアルゼンチンとフランスが2回、イングランドとスペインが1回と続く。その事実が示す通り、いわゆるサッカーの伝統と実績を兼ね備えた列強国が優勝を争う構図となっている。

上に行けば行くほど、その列強国が立ちはだかり、勝ち上がりを困難にさせる。ロシアW杯ではクロアチアが初めて決勝に進出したものの、フランスに敗れた。過去にトーナメントを制した経験がモノを云う。それがW杯だ。

一方、オリンピックにおける男子サッカーは、第1回W杯より30年も前のパリ1900大会から正式競技として行われており、そこから26大会(ロサンゼルス1932大会はサッカーが開催されず)で19カ国の優勝国が誕生している。複数回の優勝は最多3回のハンガリー、イギリスと、2回のアルゼンチン、ソ連(現ロシア)、ウルグアイの5カ国。W杯を5回制しているブラジルは、地元開催のリオデジャネイロ2016大会でようやく悲願の金メダルを手に入れた。

近年の大会でも、W杯ではベスト8の壁に阻まれているメキシコ(ロンドン2012大会)や、アフリカ勢(ナイジェリア/アトランタ1996大会、カメルーン/シドニー2000大会)が優勝している。どの国にも金メダルのチャンスがあるのが、オリンピックの特徴だろう。

ロンドン2012大会ではメキシコ(緑)が決勝でブラジルを破り、戴冠を果たした
ロンドン2012大会ではメキシコ(緑)が決勝でブラジルを破り、戴冠を果たした

若手のキャリアに大きな影響を及ぼす大会

こうした背景には年齢制限と、各国ひいては大陸の事情がある。23歳以下の若手選手にとってみれば、世界が注目するオリンピックという大会は、自らの実力をアピールする絶好の機会。選手たちは国の名誉や誇りを懸けて戦うと同時に、より大きなクラブへのステップアップを目指し、しのぎを削る。国際大会での活躍は、評価の重要な指標となるため、オリンピックは、若手選手のキャリアに大きな影響を及ぼす。

母国に金メダルをもたらしたリオネル・メッシ(アルゼンチン/北京2008大会で優勝)やネイマール(ブラジル/ロンドン2012大会準優勝、リオ2016大会優勝)を始め、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル/アテネ2004大会出場)、ロナウジーニョ(ブラジル/シドニー2000大会出場)といったサッカー史に残るスター選手もオリンピックに出場した経験を持ち、その後のさらなる飛躍につなげた。

なおバルセロナ1992大会以降、ヨーロッパ勢は金メダルを獲得できていないが、これは欧州選手権の影響が大きいとされる。オリンピックと同じ年の6月から7月にかけて行われるため、同選手権に出場した23歳以下の選手は、所属クラブの意向もあって、大会出場を見送ることが多い。もちろんどの国も様々な事情で選手を招集できないケースはあるが、とりわけヨーロッパ勢にとってこの兼ね合いは難しい問題だろう。

北京2008大会に出場したメッシ(右)はアルゼンチンに金メダルをもたらした

オーバーエイジ枠をどう活用するか

そして優勝予想をより困難にさせるのが、オーバーエイジ枠の存在だ。この制度が施行されたアトランタ1996大会以降、優勝国は例外なくオーバーエイジ枠で出場した選手たちが期待通りの活躍を披露し、若いチームをけん引している。シドニー2000大会では日本の国内リーグでも抜群の得点力を発揮したパトリック・エムボマが4ゴールを挙げ、カメルーンを初優勝に導いた。前回のリオ2016大会では地元ブラジルの期待を一身に背負ったネイマールが、決勝戦の先制点を含む4ゴールを記録するなどさすがのプレーで、金メダル獲得の立役者となっている。

カメルーンのエムボマがシドニー2000大会のブラジル戦で決めたFK
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アテネ2004、北京2008大会を連覇したアルゼンチンは、守備陣を強化するためにオーバーエイジの選手を招集し、戴冠を果たした。日本もベスト8に進出したシドニー2000、4位に入ったロンドン2012の2大会は、オーバーエイジ枠で選出された選手たちが躍進の大きな力となった。

オーバーエイジ枠の活用にはリスクも伴う。そこで選ばれた選手は、大会直前に初めてチームに加わるため、連係を深める時間はあまり取れない。うまく機能すれば戦力値は著しく上がるが、その逆もあり得る。どのポジションに、誰を呼ぶか。プレーだけではなく、選手のキャラクターも重要なため、オーバーエイジ枠をどう使うかが、結果の行方を左右する。

伝統と実績を兼ね備えた列強国同士のハイレベルなしのぎ合いは見る者を魅了するが、どこが勝ってもおかしくない予想困難な戦いも人々を熱狂させる。オーバーエイジ枠という独特のルールにも、各国の戦略が反映され、興味を掻き立てられる。来たる東京2020大会は1年延期されたことにより、24歳以下の選手に出場資格が与えられることになった。若手選手にとっては、その1年が成長する貴重な時間となるため、東京ではこれまで以上に熾烈な戦いが繰り広げられそうだ。