バスケットボール
バスケットボール
髙田真希、社長として描く希望 二足のわらじを履くアスリートたち
(c)JBA
東京2020大会に出場する、もしくは出場を目指すアスリートの中には、競技者に加え、もう一つのキャリアを持つ選手がいる。リオデジャネイロ2016オリンピックに出場した際、バスケットボール女子日本代表でキャプテンをも務めた髙田真希もその1人だ。バスケットボール普及のためにイベント会社を設立。「バスケットボール選手」と「社長」という二足のわらじを履く髙田の生き方に迫った。
東京2020オリンピックへの新たな一歩となるイベントに、日本代表が集結
(c)JBA
「バスケットボールって楽しいなって」
東京2020オリンピックへの新たな一歩、5人制、3x3、車いすのバスケットボール日本代表が一堂に会したイベントに髙田真希の姿もあった。
「BASKETBALL ACTION 2020超える力。叶える力。」――新型コロナウイルス感染症や災害など困難な状況下でも、日本のバスケットボール界が前進していくためのプロジェクト。その一環として8月に行われたイベントで5人制代表はエキジビションマッチを披露した。大型ビジョンに映し出された観客が見守る中、スタートから出場した髙田は生き生きとコートを駆けていた。バスケットボールができる喜びを感じながら。好機には3ポイントシュートも決め、ゲームを盛り上げた。
「楽しかったです。生活の一部にバスケットボールがある、そういった日常が戻ってくると実感できたし、バスケットボールって楽しいなって改めて思いました。(試合を)待っていてくださった方々の前でプレーできてうれしかった。プレーしている姿を見ていただいて、元気や勇気や日々の活力を与えられたら、『試合を見て元気が出た』『この1週間頑張ろう』と思っていただけるとうれしいですし、そう思ってもらえるようなプレーをしていきたいです」
髙田は笑顔でそう話した。
子どもたちやファンと触れ合う機会を
バスケットボールが好き。愛するバスケットボールを広めるために、アスリートとして一個人として何かできることはないか。髙田はずっとその「何か」を求めていた。その中で浮かんできたのが、「子どもたちやファンと直接触れ合う機会を増やしたい」という思いだった。
「自分がバスケットボールを始めた時、特に中学生の頃にトップレベルの選手と触れ合える機会がもっとあって教えてもらえていたら、早い段階からうまくなっていただろうなと実業団に入ってから思ったんです。そういう機会が多くあれば、子どもたちの競技力の向上につながったり、バスケットボールの楽しさやスポーツの楽しさをもっと伝えられるのではと思いました。ファンの方々がいるからこそ、自分たちはプレーできている。もっともっと応援してもらうためにも、イベントの機会を増やすことが一番だと考えました」
所属チームも交流イベントを実施している。それでも実業団としてイベントを行うとなると、準備・実施するまでに時間がかかり、1年に1回がせいぜい。自分が思うようなペースでの開催は難しい。ならば、「やりたいこと、思いついたことをすぐに形にできるように自分が会社を作った方がいいのでは」と起業することを決めた。
「構想自体は5、6年前からで、所属会社に相談したのは1年ぐらい前です。会社が理解してくださり、応援やバックアップもしていただいて本当にありがたいと思いました」
起業は大変だったが、楽しさも
しかし、いざ会社を起こすとなると、難しいことばかりだった。会社の作り方からわからない、登記の方法もわからない。知らない単語や用語だらけで書類もたくさんある。読んでも理解できない。「本当に大変でした。いろんな人の助けを借りて教えてもらいながらなんとかやりました」と髙田は苦笑した。
それでも、「同時に、それがまた面白いというか、知らないことを知れるということで、逆に楽しいなって思ったんです」
大変なことでさえも面白がる、それが髙田だ。そして2020年4月6日、イベント業を主とする会社を立ち上げ、髙田は社長に就いた。
会社の設立に対する思いとして、髙田は自身の「真希」という名前にちなみ、こう語る。
「真実とは別のもう一つの意味『本当』と『希望』。本当の希望イコール夢だと思って、いろんな人たちの夢や希望を応援していきたいです。子どもたちのスポーツ選手、バスケットボール選手になりたいという夢を後押しする、アスリートの、現役を終えた後もスポーツに携わりたいという夢、そういうマネージメントもしたいと考えています」
「いろんな人たちの夢や希望を応援していきたい」と会社を起こした
「人の話や経験を聞くこともプレーの向上に役に立つはずだ」と考え、会社設立後すぐにサロン「髙田真希女子アスリート社長室」を開設し、オンラインで、バスケットボールをしている人やファンと交流できる場を作った。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、イベントを開くのが厳しい時期にあえてスタートしたのは、「今までに経験したことがないような状況で自分自身もバスケットボールができない環境で過ごしていたから、同じようにスポーツができない人たちに元気や勇気を与えたい。日々の活力になるような、少しでも嫌な時間を忘れてもらえる時間をたくさん作りたい」と思ったからだ。
「始めてよかったです。ファンの方々と触れ合える機会が増えて、前向きな熱い思いも伝わってきました。応援してもらっているという実感も湧いたので、応援してくれる人たちのためにもっともっと頑張らなきゃいけない、もっともっとうまくならなきゃいけないと感じました」
うれしい反響
現在、社員は髙田一人、調整やほぼすべての業務を自らこなす。忙しい日々だが、うれしい反響も届いているという。インターンや社員募集の問い合わせがあったのだ。
「『自分もスポーツを盛り上げたいです』『スポーツに関わる仕事をしたいです』といったメッセージをいくつかいただいて、やりたいと思っている方がたくさんいるんだなと。面白いなと思いました」
そんな志を持った若者の夢をかなえることも仕事の一つだ。
「現役選手にイベントに来てもらったら、その選手を応援してもらうきっかけになると思いますし、競技の認知や活性化につながる。イベントをきっかけに競技を始めようと思ってくれる人が増えれば普及にもなる。応用できる部分がたくさんあると思うので、いろんなスポーツを手掛けていきたいとも思っています」
リオデジャネイロ2016大会で20年ぶりの8位入賞、東京2020大会では金メダルを目指す
湧いてきた金メダルへの自信や実感
昨年、髙田が主将をも務めた女子日本代表は、ロンドン2012大会には出場できなかったが、リオデジャネイロ2016大会で20年ぶりの8位入賞を果たし、「FIBA 女子アジアカップ2019」では決勝で中国を破り4連覇。世界ランキングは10位 (2020年9月現在)だが、上位との差は詰まってきている。
目指すのは「金メダル」だ。
「まだまだやることはたくさんありますが、金メダルを取ることへの自信や実感は湧いてきています」
身長差が10cm、20cmある海外選手を相手にしなればならない日本は、堅いチームディフェンスからのスピードを生かした速いオフェンス「トランジションオフェンス、走るバスケ、そして3ポイント」を武器にする。東京までにそれをさらに磨き、金メダルへと突き進むつもりだ。
「日本でオリンピックが開かれるのは、人生の中で1回かあるかないかだと思っています。バスケットボールをたくさんの方に見てもらえるきっかけになるので、もっと盛り上がるように選手として結果を残したい」と、選手として大舞台での活躍を誓う。
社長としてはどうだろうか。
「自分が今思い描いているのは、オリンピックで金メダルを取って、そのメダルをたくさんの方々に見ていただくイベントを日本全国各地で開くことですね。メダルを見て、オリンピックを目指す子どもたちがたくさん増えてくれるとうれしいです」
そう、それこそが髙田自身が思い描く本当の希望、かなえたい夢だ。
愛するバスケットボールを広めたい、それが髙田の「本当の希望」