近代五種 岩元勝平のAthlete Journey 2度目の大舞台、「魔物」に打ち勝つことはできるか

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岩元勝平のAthlete Journey
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「魔物はいますね」

リオデジャネイロ2016大会で初めてオリンピックを経験した近代五種の岩元勝平は、苦笑いを浮かべながら振り返った。2014年、韓国のインチョンで行われたアジア競技大会で銅メダルを獲得するなど、世界で足跡を残し始めていただけに懸けていた大舞台。しかし結果は、思ったような動きができず29位に終わった。あれから4年が経過し、31歳の岩元は延期となった東京2020オリンピックについて、「(大会の)日程も決まって、自分がどうしていけばいいかを逆算できるようになりました。1年あれば、まだまだ力を伸ばすことができます」と前向きに捉える。

「キング・オブ・スポーツ」と称される戦い

東京2020オリンピックで実施される33競技の中で「キング・オブ・スポーツ」と称される戦いがある。それが近代五種だ。近代オリンピックの父といわれるクーベルタン男爵が提唱した種目で、古代オリンピックで行われたペンタスロン(五種競技)にならい、フェンシング、水泳、馬術、そして射撃とランニングを組み合わせたレーザーランで競われる。万能性がものを言い、あまりの過酷さに最後のレーザーランを終えると倒れこんでしまう選手もいる。

そんな競技との出会いは、出身地の鹿児島県で水泳に打ち込んでいたとき、自衛隊体育学校からスカウトを受けたことがきっかけだ。2008年4月、自衛隊に入隊し、集合訓練などを受けて選抜された後、本格的に競技を始めた。2012年には全日本選手権大会を初制覇し、そこから大会3連覇を達成するなど実力を伸ばし、勢いそのままにリオへと乗り込んだ。

2016年8月、リオ2016オリンピックに出場した岩元勝平
2016年8月、リオ2016オリンピックに出場した岩元勝平

しかし待ち受けていたのは、望んでいたものとは違う結果。「期待に応えたい」というプレッシャーが自分を追い詰めた。「試合にのまれるタイプじゃないし、楽しむタイプなのですが、初めてのオリンピックは試合の雰囲気にのまれて、自分の動きができなかったというのが正直な印象です」と悔しさをにじませる。

よぎった引退、それでも出たい東京2020大会

帰国後、次のオリンピックまでの道のりは長く感じた。そのことから競技引退が頭によぎった。その一方で、リオに行ったからこそ感じたことがある。

「リオの段階で次回のオリンピックは東京ということが分かっていました。東京2020大会の前にオリンピックの舞台を踏めたこと。間違いなく、初めてと2度目は気持ちが違うと思いました」

周囲からの説得も受けた。そして最後は「やっぱり心のどこかでは自国開催のオリンピックに出たいという思いがありました」と競技続行を決意した。

インタビューに答える岩元勝平
インタビューに答える岩元勝平

2018年3月には、ワールドカップ第2戦で日本男子歴代最高となる6位となるなど、着実な歩みを進める。そして2019年11月、東京2020大会の予選を兼ねたアジア・オセアニア選手権で日本勢最高の7位となり出場権をつかんだ。「ほっとしました。またオリンピックの舞台で戦えることはとても嬉しいです。そして精神的にも強くなっています。まだまだ戦えます」。

延期決定、「何のために練習」と葛藤も

そんな大舞台に向けて調整を続けていた矢先の2020年3月、東京2020大会は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2021年へと延期。決定直後は2020年で競技生活は終わりと決めていたこともあり、落胆が大きかったという。また活動自粛中は、満足に体も動かせず、「自分は何のために練習しているのだろう」と葛藤した。しかし、周りがそんな気持ちを切り替えるきっかけを与えてくれた。

「特に家族の存在が大きくて。子どもたちも1年あれば、また成長して記憶に残してくれます。そして両親からは『楽しみにしている』という言葉をもらっており、そのためにという気持ちもあります。周囲の声に耳を傾けるうちに、『自分にはこれしかない』という決心めいたものが生まれてきました」

悩んだ日々を乗り越え、再び「オリンピックの舞台でメダルを獲る」という目標に向かって歩みを進めている。自粛期間には、自身の課題と向き合い、本番まで何をしていかなくてはいけないかを明確にすることができた。

「技術種目(フェンシング、馬術、射撃)はまだまだ伸ばしていく必要があります。特にフェンシングは負けられないところですね。自分には「悪い癖」のようなものもあり、試合のない期間だからこそ、じっくり修正できる期間でした。体力種目(スイムやラン)も1年で土台作り、そして積み上げもしたいです」

フェンシングの練習に臨む岩元勝平
フェンシングの練習に臨む岩元勝平

楽しんでいる姿を見てほしい

競技歴は10年を超え、国内外で数々の大会を経験し、ベテランとしての風格も出てきた。「始めたばかりの頃を考えると、オリンピックに出られるというイメージはなかったです。年数を重ねていくごとに、近代五種への付き合い方やどのように練習を組めば強くなれるかが分かってきました」。

2度目の大舞台を前に、大切にしていることがある。それは楽しむこと。「一番試合を楽しんだ人が試合に勝てるというイメージがあります。また試合に勝つときは自分が楽しめているのかなと」。そんな競技の魅力について、「見ている側もやっている側も5種目分楽しめます。さらに最後まで誰が優勝するか分からない点ですね」とアピールする。

自ら得意という射撃。練習には余念がない
自ら得意という射撃。練習には余念がない

特にラストを飾るレーザーランには思い入れがある。「水泳以外はすべて転向後に始めましたが、中でも射撃は当初から得意でした」ときっぱり。「射撃で順位の入れ替わりやタイム差がつきます。だからこそ、自分がしっかり当てていくことで差をつけたいですね」。

前回は「魔物」に苦しめられた。その対策については、「魔物は自分の中にいます。それをどれだけ振り払えるかが勝敗のカギになります。それを振り払うためには練習での自信、オリンピックまでの試合の成績が肝心になります」。

果たして「魔物」に打ち勝ち、目標達成の瞬間を迎えることができるのか。その可否は出場するライバルたちの中で誰よりもオリンピックを楽しんだ先に見えてくる。

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