空へ掲げたNo.1ポーズ 日本のソフトボールが世界の頂きに立った日

2008年8月21日、長年夢見てきた金メダルを手にして喜ぶ日本代表
2008年8月21日、長年夢見てきた金メダルを手にして喜ぶ日本代表

2008年8月21日。それは、日本の女子ソフトボールが悲願のオリンピック金メダルを手にした日だ。

今から12年前の北京2008オリンピックソフトボール決勝は、下馬評通り日本とアメリカの対決となった。

日本が3-1とリードして迎えた最終7回裏2アウト、エース上野由岐子が渾身の力で投げた「413球目」、打球はサードに転がり、廣瀬芽がキャッチ。ボールはファースト佐藤理恵へと送られ、佐藤が懸命に体を伸ばしてつかみゲームセット。アメリカの4連覇の野望を砕き、ついに日本が世界の頂点に立った。

マウンドに選手が駆け寄ってくる。歓喜の輪ができた。その中心で上野が空へと高らかに人差し指を突き上げた。オリンピック競技に採用されたアトランタ1996大会から金メダル候補と言われながらアトランタで4位、シドニー2000で銀、アテネ2004で銅と悔しい思いをしてきた日本代表が、何年も夢に描いてきたシーンだった。

魂の「413球」。エース上野由岐子がNo.1ポーズ
魂の「413球」。エース上野由岐子がNo.1ポーズ

厳しい金メダルへの道のり

金メダルへの道のりは決して、たやすいものではなかった。

1次リーグ、日本は最大のライバルであるアメリカから1点も奪えず、0-7の大敗を喫してしまう。2位で決勝トーナメント(準決勝)へと進むことになったが、不安が残った。

8月20日、アメリカとの準決勝、日本は世界最速ストレートを誇る上野が先発マウンドに立った。後に語り継がれる「上野の413球」はここから始まった。

投手戦となり、0-0のまま延長タイブレークへ。その9回、アメリカが1-0とリードした場面で登場したのが主砲クリストル・バストスだった。速球をパワーでスタンドまで運ばれた。バストスの3ランで突き放され敗れた日本は、敗者復活戦を戦わざるをえなくなったのだ。

日本の前に立ちはだかったアメリカの主砲クリストル・バストス。準決勝、決勝で上野から本塁打を放った
日本の前に立ちはだかったアメリカの主砲クリストル・バストス。準決勝、決勝で上野から本塁打を放った

敗者復活戦は同日に行われた。負けると3位になる。相手はアテネの同戦で敗れ、金メダルへの道を断たれたオーストラリアだった。わずか5時間のインターバルながら、再びエース上野が先発マウンドに登った。上野は1試合目で147球を投げていた。

日本2-1リードで最終回あと1人の場面まで来る。しかし、ケリー・ワイボーンにまさかの同点ソロを浴び、2戦連続の延長に。11回に勝ち越しされたが、すぐさま追いつき、12回、西山麗のサヨナラヒットで勝ち切った。

エースに託した決勝戦

翌8月21日、決勝。先発はやはり上野だった。前日2試合21イニング、318球を投げていたが、当時の齋藤春香監督、そして上野の頭にも別の選択肢はなかった。アメリカも両エースで勝負に来た。キャット・オスターマンからモニカ・アボットへと継ぐ戦法だ。

決勝のマウンドを任された上野
決勝のマウンドを任された上野
対するアメリカの先発は、エースのオスターマン
対するアメリカの先発は、エースのオスターマン

3回に狩野亜由美のタイムリーで先制すると、4回表、キャプテン山田恵里がアテネ2004大会で打てなかったオスターマンをついに攻略する。ソロ本塁打を放ち2-0とリードを広げた。しかしその裏、上野が速球勝負した結果、またしてもバストスにスタンドへと運ばれ、2-1と迫られる。

再びバストスを迎えた6回裏の場面、金メダルのためにはもはや同じ過ちは許されない。上野が選択したのは「敬遠」だった。その後、四球を出し満塁になったが、アメリカを破るために習得した秘策の「シュート」で後続を打ち取った。

最終回の7回表、日本が6回からリリーフしたアボットから大きな追加点を奪い、3-1とリードを広げる。その裏、ノーアウトでランナーを出したが、その後、上野が打たせて取るピッチングに徹し、廣瀬の好守備にも助けられ、後続を抑え勝利を決めた。

金メダルの瞬間、グラウンドに笑顔が弾けた。その真ん中にNo.1ポーズを掲げる上野がいた。右手中指のマメをつぶしながら413球を投げた。すべてはこの瞬間のためだった。

北京2008大会ソフトボール決勝、日本が金メダルを獲得
02:44:39

復活の東京2020オリンピックへ

ソフトボールにとって、東京2020オリンピックは3大会ぶりの復活の舞台だ。日本代表は9月5日に再開する国内リーグ終了後の11月から東京へ向け合宿を開始する。

「延期になりプランを変更することになったが、金メダルに支障のないように強化していく」と語った宇津木麗華監督が、東京へ向けた一番の課題と考えているのが、エースの上野や藤田倭に続く若手ピッチャー、20歳の右腕、勝股美咲と19歳の左腕、後藤希友らの成長だ。

「若い選手はこの1年間でもっと技術的にも成長することができるので、コミュニケーションしていきたい。外国チームとの試合でチャンスを与えたり、どう使うかなどの戦術も考えていきたいと思っています」

金メダルのために365日努力を続ける上野

「いつもたくさんの応援ありがとうございます。ソフトボール、東京2020オリンピックで金メダルが取れるように精いっぱい頑張っていきますので、引き続き熱い声援をお願いします」

2019年に国内リーグを制した上野は、オリンピック決勝の会場である横浜スタジアムでファンにこう宣言した。

「喜びは一瞬、でもそのために365日一生懸命努力している」と語る上野は、その一瞬のために、前を向き東京へと歩みを続ける。

アメリカもまた、虎視眈々と金メダルを狙っている。

世界選手権を連覇中で、2019 JAPAN CUPでも日本を破り優勝しているが、オリンピックの金メダルは特別だ。オスターマンは一度引退しながら、「金メダルで終わりたい」と2019年、4年ぶりに現役復帰した。上野と同じ38歳で東京を迎えるエースにとって、北京で日本に敗れたことは忘れられない過去だが、モチベーションにもなっているという。

「東京2020大会で、ソフトボールがオリンピックに戻ってくる。素晴らしいことです。オリンピックはスポーツの最高の舞台、そこで再びプレーできるチャンスに興奮しています」

ソフトボールの未来のために活躍誓う

次のパリ2024大会では種目から外れるソフトボール。

「目指しているところは金メダルしかない。私たちが活躍することによってソフトボールが注目されて、再びオリンピック競技として復活し、夢や目標をもってソフトボールをしている多くの子どもたちにもオリンピックという舞台を経験してほしい」と36歳のキャプテン山田は言う。

「金メダル」は再びオリンピック競技に戻るための、オリンピックを夢見る子どもたちやアスリートの希望でもある。

日本のソフトボールが東京で再び頂きに立つその瞬間を、選手はもちろんファンや関係者も待っている。

ソフトボール発展のために東京でも金メダルを。その瞬間のために努力し続ける
ソフトボール発展のために東京でも金メダルを。その瞬間のために努力し続ける