プレーバック・リオ 伊調馨「初めて戦うのが怖かった」苦境乗り越え4連覇達成

リオデジャネイロ2016オリンピックにおいて、日本は金12、銀8、銅21と計41個のメダルを獲得した。選手たちは何を思い、この大舞台に臨んだのか。今も記憶に新しい、感動と興奮に包まれたシーンを振り返る。

プレーバック・リオ 伊調馨が終了間際の逆転で4連覇達成
01:41

レスリング女子58kg級決勝結果

伊調馨(日本)

(3-2 判定)

ワレリア・コブロワ(ロシア)

ストーリー

伊調馨は優勝が決まっても笑顔を見せなかった。女子個人種目の選手としては史上初のオリンピック4連覇。試合終了間際の逆転という劇的な勝利を収めたにもかかわらずだ。

「本当に内容はダメダメで、もっと良い試合をしたかったという悔しさと、申し訳ない気持ちです」

まるで敗者のようなコメント。しかし、これが「求道者」と評される所以(ゆえん)なのだろう。金メダルを取った後に「レスリング選手としては出直してこいという感じでしたね。やはりこの競技は難しいですし、だからこそやりがいがある」とは、なかなか言えるものではない。

リオデジャネイロ2016オリンピックは、「勝ちにこだわる」と宣言して臨んだ大会だった。これまでの伊調は、どちらかと言うと結果よりも内容やプロセスを重視する傾向があっただけに、その覚悟がうかがえた。背景には、2016年1月の国際大会で、2003年以来続いていた連勝記録が189でストップした影響もあったことを、伊調は明かしている。「今回は戦うのが怖かった。戦うのが怖いと思ったオリンピックは初めてです」と語ったのも、より勝つことに比重を置いたがゆえに、負けることへの恐怖心が芽生えたとも捉えられる。

その「勝ちにこだわった」リオの舞台で、伊調は3回戦こそやや苦戦を強いられたが、順当に決勝までたどり着いた。4連覇を懸けた相手はロシアのワレリア・コブロワ。伊調は第1ピリオドで1ポイントを先取するも、攻めに出たところを逆にコブロワにバックを取られ、1-2と逆転を許してしまう。そのままスコアは動かず、第2ピリオドも残り30秒を切った。ただ、伊調は焦らずチャンスをうかがっていた。するとリードしている相手が、カウンターで攻めてきたところを、粘って耐え抜き、逆に回り込んでバックを取る。2ポイント追加で3-2と逆転。残り時間はわずか数秒しかなかった。

「最後に勝てたのは、これまで応援してくれた方々や支えてくれた方々が、私に力を与えてくれたからだと思います。今回の金メダルはいつもより重い気がします。自分1人では決して取れなかった。みんなの気持ちがたくさん詰まった重たいメダルです」

この大会の試合前、伊調は必ず会場の天井を見上げていた。それは2014年11月に亡くなった母に向けて語りかけるためだ。「見ていてね、絶対に良い試合をして金メダルを取ってくるから」。決勝前にもそう言って、大一番に臨んだ。

「こんなにも天井を見上げたオリンピックはなかったと思います。今日の最後は母が助けてくれたのだと思います。もう少し良い試合をしたかったですね。今は「ごめんね、助けてくれてありがとう」と言いたいです」

自身が「30点(金メダル獲得で25点、試合は5点)」と点数をつけたように、伊調にとっては満足できる内容ではなかったのかもしれない。それでも敗色濃厚の中で見せた土壇場の強さ、4連覇という前人未踏の快挙はいつまでも語り継がれていく。試合直後は笑顔を見せなかった伊調だが、表彰式後には柔らかな笑みを浮かべて、こう言った。「今までで一番うれしい金メダルです」。勝負に徹し、恐怖心と戦いながら手にした栄冠の重さを、伊調はかみしめていた。

関連コンテンツ

プレーバック・リオ 「新種」の柔道家、ベイカー茉秋が貫いた自らのスタイル

ブーイングを浴びても、ベイカー茉秋は気にも留めなかった。試合時間は半分ほど残っていたが、無理に攻撃を仕掛けない。「勝利すること」を最優先に考えた戦略が、ベイカーを突き動かしていた。