野球人口1000人のイスラエル、オリンピックの夢を現実に

東京2020オリンピックへの出場を決め、歓喜するイスラエル代表の選手たち
東京2020オリンピックへの出場を決め、歓喜するイスラエル代表の選手たち

1993年に公開された映画「クール・ランニング」 のモデルになったジャマイカのボブスレーチームのことを覚えているだろうか。雪が降らず氷も張らない南国ジャマイカの選手がウインタースポーツに挑戦し、カルガリー1988オリンピック出場を果たした。

野球のイスラエル代表は、彼らになぞらえることができる。強豪国ぞろいの中で勝ち目がないと思われてきたが、今や東京2020オリンピックという大舞台で虎視眈々と世界をうかがっている。

夢物語だと思われていた東京への道

イスラエル野球連盟(IAB)のピーター・カーツ前会長(現在は代表チームGM)は2018年に、同国を東京2020オリンピックに出場させる自分なりの道筋をイスラエルオリンピック委員会に伝えた 。

当時を思い出してカーツ氏は言う。

「私は、「イスラエルがオリンピックに出場するには、まずいろんな大会に出場して力をつける必要がある。そのために外国から助っ人を呼び寄せてチームを補強する」と説明しました。委員たちは頷きながらも、「君は本当に夢追い人だね」と言ったものです。多くの人が夢物語だと思っていました」

実は、カーツ氏は2017年に開催されたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)におけるイスラエルの好成績(初出場ながらベスト8) を受けて、自国をいかにしてオリンピックに出場させるかの、ロードマップをまとめていたという。

「当時の監督に、自分が描いていたシナリオをすべて説明しました。すると監督は、「正気ですか?」と。それでも、「とてもそうは思えないですが、私はついていきます」と言ってくれました」

野球人口はたった1000人

時は進み2019年9月、イスラエルはホスト国である日本を除き、一番乗りで東京2020オリンピック出場を決めた。

イスラエルが団体球技でオリンピックに出場するのは、サッカーで出場したモントリオール1976大会以来のことだ。野球が出場権を得たことで、イスラエルのオリンピック選手団はこれまでで最大規模になるという。

もちろん、イスラエル代表はただ単に選手団の人数を増やすために東京にやって来るのではない。イスラエルの人口920万人のうち、野球人口はたった1000人ほど。それでも彼らはメダルを取るつもりでいる。

下馬評を覆す

イスラエル代表のこれまでの歩みは、周囲の予想を覆し続ける物語だった。オリンピック出場への旅はゼロからの出発。初めにヨーロッパ選手権予選のBプール(Group 2)を無敗で勝ち抜くと、次に唯一の野球場が競馬場の中だというBプール(Group 1)の勝者リトアニアと対戦。3戦のうち先に2勝したほうが勝つプレーオフ(3試合シリーズ)で勝利し、6週間後にドイツで開催される2019年ヨーロッパ選手権への出場権を手にした。

ドイツでのヨーロッパ選手権は素晴らしい結果をもたらした。イスラエルは4位に食い込み、東京2020オリンピックのアフリカ・ヨーロッパ予選出場を決めたのだ。そうしてすぐさま数日後にはオリンピック予選に出場するためにイタリアへ飛んだ。

同予選では、北京2008大会に出場した優勝候補のオランダを含むヨーロッパの3つの強豪国に勝利。オリンピック出場のチャンスをぐっと引き寄せ、2試合で1勝すれば東京行きの切符を手にするというところまでこぎつけた。その後、チェコに敗れ、これまでの努力のすべてが水泡に帰す可能性もあったが、最後に南アフリカを11-1で下し、予選突破第1号として東京2020オリンピック出場の夢を現実にした。

「涙が溢れてきました。ヨーロッパのチームとしてオリンピックに出場するなんて途方もないことです。ゼロから始めて、こうして東京行きを一番に決められたことも偉業です」

オリンピックのために資金集め

同国のオリンピック委員会は代表チームに資金援助をしているが、足りない費用はIABが調達しなければならなかった。

「オリンピアンになるまで我々は政府から何のサポートも受けられなかったのです。だから何としてでも自分たちで資金を確保しなければなりませんでした。もしお金を調達できなかったらどうなっていたか、想像したくもありません」

オリンピック出場が決まっても資金集めは続く。オリンピック委員会は選手たちを東京に派遣する費用は負担してくれるが、代表チームには大会前にアメリカと日本で合宿したいという希望がある。その費用は、自分たちで確保する必要があるのだ。

アフリカ・ヨーロッパ予選でイタリアに勝利し喜ぶイスラエル代表
アフリカ・ヨーロッパ予選でイタリアに勝利し喜ぶイスラエル代表
Credit: WBSC

大どんでん返しを狙う

昨年9月のアフリカ・ヨーロッパ予選を視察した野球日本代表(侍ジャパン)の稲葉篤紀監督は、イスラエル代表を非常にレベルが高いチームとみて「警戒心」を強めている。

「日本の監督がイスラエルを警戒しているとは、大変な賛辞であり、光栄に思います。もちろん我々も日本に対して同じ思いを持っています」

イスラエルと違って日本は野球が盛んだ。代表チームは2020年7月現在、世界ランキング1位、野球人口は730万人を超え、東京でも金メダルを目指している。

カーツ氏は言う。

「最大の壁は日本代表になるでしょう。疑いの余地はありません。決勝まで顔を合わせないことを祈るばかりです。イスラエルは日本に神経をとがらせています。ただ、イスラエルは勝つと思われていないので、オリンピックでは思い切って何でもできる。我々はそんな立場が気に入っています」

野球が、3大会ぶりにオリンピック復活となる東京2020大会で、表彰台に向けてしのぎを削るのはたった6チーム。つまり理論的にはイスラエルがメダルを獲得する確率は50%だ。

世界18位のイスラエルがメダルを獲得すれば、自国での野球の発展に貢献することになる。

野球をもっと人気スポーツに

イスラエルではサッカーとバスケットボールが人気スポーツだが、東京2020大会に出場すれば、野球をもっと知ってもらうことができるという期待もある。

「メダル争いが我々の目標です。絶対に取れると信じていますし、メダルを取ってイスラエルで野球をもっと盛んにすることが重要なのです」

イスラエルでは、ベト・シェメシュで球場が建設中だ。ラーナナでも建設が予定されており、オリンピックが終わった後には子どもから大人まで野球人口が2000人まで増えると期待されている。

「昔から言うでしょう、「作れば、彼らは来る」と。本当にそうだと思います。球場があれば子どもたちはもっと集まってくれる。それにメダルを取るという我々の目標が実現すれば、オリンピックの宣伝効果が加わって、とてつもない効果になります。なぜかと言うと イスラエル人はオリンピックに関するものならすべて大好きだからです」

イスラエルはオリンピックの団体競技でまだ一度もメダルを取ったことがない。しかし2021年7月、東京2020大会の試合が始まれば、そこでの可能性は無限に広がる。