プレーバック・リオ 「新種」の柔道家、ベイカー茉秋が貫いた自らのスタイル

リオデジャネイロ2016オリンピックにおいて、日本は金12、銀8、銅21と計41個のメダルを獲得した。選手たちは何を思い、この大舞台に臨んだのか。今も記憶に新しい、感動と興奮に包まれたシーンを振り返る。

プレーバック・リオ ベイカー茉秋が男子90kg級で日本人初の金メダル獲得
02:05

柔道男子90kg級結果

ベイカー茉秋(日本)

(優勢勝ち 有効 大内刈)

バルラム・リパルテリアニ(ジョージア)

ストーリー

ブーイングを浴びても、その表情は晴れやかだった。とにかく勝ちに徹する。ベイカー茉秋は自らのスタイルを貫き、金メダルに輝いた。

「格好良く終わりたかったのですが、メダルは金と銀で全然違うということはすごく分かっていたので、その気持ちがポイントを取ってからの試合運びに出たという感じです」

オール一本勝ちで迎えた決勝、ベイカーは2分過ぎに大内刈で有効を奪う。まだ試合時間は半分ほど残っていたが、そこからは相手と距離を取って無理に攻撃せず、慎重な姿勢を崩さなかった。指導を受けてもまだポイントでは自分が有利。その守備的な戦いにブーイングを受けようが、「それも戦略」と気にも留めなかった。

攻撃的な柔道が美徳とされる日本で、ベイカーは「新種の選手」と評される。高校に入学した当時は66kg級の選手で、そこで学んだ体さばきや技は90kg級での戦いにも生きている。腰を引いた組み姿勢も独特だ。もちろん一本勝ちへの思いは強いが、それにこだわらず「勝利すること」を最優先に考える柔軟性を持ち合わせている。リオ2016オリンピックの決勝は、「最初にポイントを取って、あとはそれを守り切る作戦通りの勝利だった」。ベイカーは、この作戦のために「終盤でポイントを守り切る練習を積み重ねてきた」という。金メダルはこうした努力の成果だ。

勝つため、強くなるためにベストの道を見つけ出す。それはベイカーが柔道人生で心掛けてきたことだった。リオ2016オリンピックの日本代表に選出された直後、ベイカーは高校時代に指導を受けていた竹内徹さんを特別コーチとして招き、練習を積んだ。「厳しい言葉をかけてくれる方が少なくなった状況で、竹内先生なら僕の欠点をきちんと指摘してくれると思ったし、オリンピック前に自分の柔道の原点に立ち返りたいという思いがあった」と、その意図を語る。合宿や試合にも帯同してもらい、己をもう一度見つめ直した。

男子日本代表の井上康生監督は、決勝の戦いぶりについて「彼の執念と見てもらえればありがたい」としたうえで、「ベイカー茉秋、恐るべしですね。これまでの日本では否定されていたタイプの柔道。それが金メダルを取ったことで(そうした柔道の)新たな面白さを切り開いた。人が持っていない柔軟性や力強さがあり、相手からしてみれば独特のやりにくさがある」とベイカーの個性を評価した。男子90kg級での金メダル獲得は、日本人初の快挙。「新種」と呼ばれるその異才は、「歴史に名を刻んだということですよね」と、豪快に笑いながら、喜びを爆発させていた。

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