ウーゴ・カルデラノ、メダルへの原動力「ブラジルで卓球をもっと人気に」

リオデジャネイロ2016オリンピックの卓球男子シングルス2回戦でスウェーデン代表のパー・イェレルを破り、ファンとともに自撮りをするウーゴ・カルデラノ
リオデジャネイロ2016オリンピックの卓球男子シングルス2回戦でスウェーデン代表のパー・イェレルを破り、ファンとともに自撮りをするウーゴ・カルデラノ

長く中国が世界をリードしている卓球界において 、ウーゴ・カルデラノは異端児と言える。ITTF世界ランキングの「ガラスの天井」(編注:見えない格差などを表す表現)を破り、ブラジル人として、そしてラテンアメリカ人として初めて6位になった。

「2018年以降ずっとトップ選手の1人であり続けている。それはブラジルの卓球にとって大きな意味があることで、とてもうれしいことです」

カルデラノは自分の功績を軽んじてはいない。

「僕が残した結果はラテンアメリカの選手たちへの刺激になり、南米大陸からでもトップ選手になれる可能性があることを示していると思います」

23歳のカルデラノが卓球の頂点に上り詰めることよりも重視しているのは、母国の栄光のために、東京2020大会でメダルを取ることだ。

「どんなアスリートにとっても世界一になることは偉業ですが、僕の最大の目標、照準はオリンピックでメダルを獲得すること。その瞬間のためにやっています」

カルデラノがエリート集団に加わったことで、サッカーが国民的スポーツであるブラジルで、卓球はこれまでとは違う盛り上がりを見せている。卓球人気が高まってきているのだ。カルデラノは自分がオリンピックでメダルを取って、卓球をもっと人気スポーツにしたいと思っている。

「サッカーはブラジルで不動の人気スポーツですが、リオ2016大会のあと卓球もダイナミックで見ていて楽しいと注目され始めたように感じます。卓球がますます人気になるように自分が成績を残して、母国の次世代に刺激を与えたい」

卓球の天才

カルデラノは幼い時からバレーボールや陸上競技などいろんなスポーツに親しんできたが、特に強く惹かれたのが卓球だった。

「小さい時からよくピンポンをしていました。卓球クラブに入るとそれまで知らなかった卓球の発見がさまざまあって、夢中になったのを覚えています」

8歳から13歳まで、地元クラブで週3回の練習を欠かさずこなした。その頃からオリンピアンの片鱗をのぞかせていた。すでにリオで一番強い選手になっていたが、地元には適切な施設がなく、それがこの若きアスリートの成長の足かせとなっていた。そこでカルデラノはブラジル代表チームと本格的な練習をするために、サン・カエタノ・ド・スルに向かうことにした。そして日中は練習、夜は勉強に励み、来る日も来る日も腕を磨いた。

「リオの卓球環境がそれほどよくなかったので、練習のレベルを上げ、プロの卓球選手になるために14歳の時に国内で最高水準の練習ができるサン・カエタノに移る必要があったのです」

選手として成長するにつれ、もう一段階上がりたい、世界レベルで戦いたいと思い国外に目を向けるようになった。

16歳の時にパリに移った。それは家族と遠く離れ、単身で暮らすことを意味していたが、そういった犠牲もすべて無駄ではなかった。

2013年、 カルデラノはITTFワールドツアーで世界最年少優勝記録を更新。同年ITTFジュニアサーキットも制し、シングルスで同じ年にシニアとジュニア両タイトルを取った初めての選手となった。翌2014年には南京で行われたユースオリンピックで銅メダルを獲得し、ブラジル人として初の歴史的快挙を成し遂げた。そしてリオ2016大会で人気選手となった。

オリンピック会場にはたくさんの人が詰めかけた。カルデラノの名前を連呼し、さながらサッカーの試合のようだ。当時世界で54位だった人気者のカルデラノはメダルこそ取れなかったものの、鮮やかなプレーで大方の予想を覆した。ランキング上位の香港のベテラン唐鵬とビッグサーバーで知られるスウェーデンのパー ・イェレルに勝利。4回戦で日本の水谷隼に敗れたが、初出場したオリンピックでベスト16になり、世界9位まで順位を上げた。

プロになってさらなる進化

カルデラノは18歳だった2014年、ドイツのオクセンハウゼンに移り、現在はドイツのブンデスリーガ1部でプレーしている。

「オクセンハウゼンには練習しに来たことがあり、そこが最適なトレーニング場所だと知っていました。メジャーなチームから声が掛かった時には二つ返事で応じました。僕にとって大きな転機となり、レベルの高い練習や試合を経験する中で確実に実力が上がっていきました」

パリとオクセンハウゼンでの経験はカルデラノにアスリートとしての進化をもたらした 。

カルデラノの持ち味はアグレッシブなプレーだ。

「パワーとスピードが僕の強みです。プレースタイルはアグレッシブで攻撃型。 自分が主導権を握れるようにこれらの強みを駆使しています」

「卓球は非常にハードなスポーツです。技術的な練習もたくさん必要ですし、ストロークも繰り返し行います。常に具体的な課題意識を持って練習しています。決まった攻撃パターンはありません。大事な場面でどんな動きをするかは無数の要素に左右されるからです。それでも決定的な場面では積極的なプレーをしようと決めています」

トレーニング方法や趣味を知れば、カルデラノが今までブラジル人が到達したことのないレベルに行けたことを驚かないだろう。

「1日6時間はトレーニングしています。フィジカルトレーニングもたくさんやります。ポイントは練習を楽しむことですね。練習を楽しめれば、力が飛躍的に向上します。だからフィジカルコーチは僕が楽しんで挑戦できるように新しい課題や練習方法を考えてくれます」

また、卓球はメンタルの強さが大きくものを言う。ルービックキューブを平均11秒で完成させるブラジル卓球界のスーパースターの頭脳明晰さがそれを証明している。

「ルービックキューブは素敵な趣味です。自由時間に楽しんでいます」

コレクションは70に上り、さまざまな形や大きさのものがあるそうだ。

東京で中国選手を倒したい

カルデラノが来年まで現在のランキングを維持し、東京2020大会で勝ち上がれば準決勝で中国選手と対戦することになる(編注:シングルスに出場できるのは1国2人まで。現在のランキングでは6位のカルデラノの上に中国人選手が4人いるため、そのうちの2人を除けば、カルデラノが第4シードになる)。

「卓球では第4シードまでに入ることが大切。そうすれば準決勝まで中国選手と対戦せずにすみ、有利になる可能性があります。それでも僕にとって大事なのはどんな相手でも打ち負かせるように準備して東京2020大会に臨むこと。そしてメダルを取ることです」

ある意味、カルデラノは卓球王国の中国勢にとって最大の脅威になっている。

「アジアは強豪ぞろいですが、その多くが中国選手です。歴史を振り返ってみても、これまでメジャーな大会のメダルのほとんどは中国が持っていきました。オリンピックのような大きな大会で中国選手を破ることが僕の最大の目標です」

中でも中国の馬龍は最大のライバルで、カルデラノは来年この王者と死闘を繰り広げることを心待ちにしている。

「2015年以来、馬龍はメジャーな大会(オリンピックや世界選手権)ですべて優勝しています。打ち負かさなければならない相手です。ただ近年けがに苦しんでいるので、 東京では他の選手にも勝つチャンスがあるかもしれません」

カルデラノの登場で、もはや中国の牙城を崩すのは不可能ではないように思われる。カルデラノはすでに、2018年のITTFワールドツ アーグランドファイナル準々決勝で前年王者の樊振東(2020年4月現在、世界1位)を破っている。

また、日本の張本智和(世界4位)との対戦も楽しみにしているという。

「張本選手は若くて素晴らしい選手です。ツアーではほとんどのトップ選手に勝っていて、しかも実力を伸ばしています。2021年に張本選手が母国でどんなパフォーマンスを見せるのか興味津々ですね」

子どもたちが卓球を楽しむ姿を見るのが願い

東京2020大会は1年延期になった。

「延期が決まったあと、コーチらと練習や目標について話し合って新たな戦略を考えました。延期になって最初は精神的にきついと感じましたが、時間とともに受け入れられるようになりました。今はしっかりと来年に照準を当てています」とカルデラノは言う。メダルを狙うために着々と東京に向けて準備を進めながら、卓球が人々の心を動かし刺激となるよう願っている。

「小さな子どもたちが卓球を始めて、卓球を楽しむ姿を見るのが僕の願いです。卓球には人々をつなぎ、生き方を変える力があります」

カルデラノが今、ファンに言いたいことはたった一つ。

「僕とブラジルの卓球を応援してくれてありがとう。皆さんが僕たちを応援してくれたり、結果をチェックしてくれるのを見るといつも勇気が出ます。今の僕があるのはファンの皆さんのおかげです」