先駆者――世界を変えたアスリート 伊調馨「金メダルじゃなきゃ、ダメなんです」

リオ2016オリンピックで女子個人として初のオリンピック4連覇を達成した、伊調馨選手
リオ2016オリンピックで女子個人として初のオリンピック4連覇を達成した、伊調馨選手

いつの時代も未開の地を切り拓いてきた人物がいる。「先駆者」――彼らはそう呼ばれる。オリンピックの歴史を紐解くと、その先駆者たちが数々の栄冠を日本にもたらしてきた。シリーズ第2回は、リオデジャネイロ2016オリンピックのレスリング女子58キロ級で、女子アスリート個人で初のオリンピック4連覇を成し遂げた伊調馨選手を取り上げる。

先駆者 ‐ 伊調馨
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オリンピック史上初、女子アスリート個人での4連覇。優勝を決めた瞬間、伊調馨選手は厳しい表情を崩さなかった。それでも表彰台に上がると笑顔を見せながら、4度目となるオリンピックの表彰台の一番高いところで唇を噛みしめ、君が代が流れると天を2度見上げた。「やっと実感が湧きました」。

伊調選手は女子レスリングが正式種目となったアテネ2004オリンピックに20歳で初出場。そこから63㎏級で3大会連続金メダルを獲得し、リオ2016オリンピックでは新たに58㎏級で出場した。

勝ちにこだわりたい――。普段口にしない言葉を表に出して試合に臨んだ王者は、階級が変わっても初戦から危なげなく勝ち上がり、決勝に進出した。女子アスリート個人での初の4連覇へ期待がかけられ、伊調選手の一挙手一投足に注目が集まった。そうした中で迎えた決勝は先手を取るも、第1ピリオドの2分過ぎにゴブロワゾロホフ選手(ロシア)に逆転を許した。

1-2のまま試合は終盤へ。4連覇は厳しいかと会場は静まりかえっていた。しかし、第2ピリオド終了15秒前、伊調選手は最後の粘りを見せた。つかまれていた右足を抜くと、残り5秒で背後に回り込み逆転。歓声が巻き起こる中、試合終了のホイッスルが鳴った。

「金メダルじゃなきゃ、だめなんです」

2003年以降13年もの間(不戦敗を除いて)負けがなく、189連勝を記録。だがオリンピックイヤーの2016年1月、ロシアで行われた国際大会決勝で負けを喫し、ついに金メダルを逃した。「負けてよかったと思わないと、もったいない」。銀メダルを首から下げ、そう言い放つと、金メダルを獲ることが当たり前となっていた伊調は、オリンピック4連覇への想いを新たにした。この敗戦をきっかけに初心に帰り、勝利にこだわるレスリングを追い求めた。

1984年青森県生まれ。兄と姉の影響でレスリングを始めた伊調選手は、いつも自分より大きな選手と練習を重ね「相手を疲れさせて、自分が攻める」というレスリングスタイルを確立させる。56kg級から63kg級に階級を上げてからは無敵の存在となった。189連勝、オリンピック4連覇という記録を残し、国民栄誉賞や紫綬褒章も授与されている。

大きな期待をかけられ、試合終了間際の逆転つかんだ4連覇。積み重ねた189回の勝ちよりも伊調選手をさらに強くしたのは、たった1度の敗戦だった。「一人でも多くの人にありがとうと言いたいです」。伊調選手は「金メダル」という形で恩返しをし、前人未踏の快挙を成し遂げた。