「ネクスト・ボルト」になれるか。棒高跳の未来を担う新星デュプランティス

東京2020オリンピックの大スターの1人になると言われているデュプランティス。今やこの新星に限界はない
東京2020オリンピックの大スターの1人になると言われているデュプランティス。今やこの新星に限界はない

20歳で1週間に2度、世界記録を更新

スウェーデンのアルマンド・デュプランティスは、棒高跳の新たな黄金時代をリードする存在だ。2020年2月8日に6.17mを跳んで世界記録を塗り替えたことで、世界が彼の存在を知り注目するようになった。

その7日後の2月15日、デュプランティスは6.18mをクリアして自らの世界記録を再び破る。いったいどれだけ高く跳べるのか、どこまで棒高跳を進化させるのか。皆の興奮は倍増した。

2度目の世界新記録を出した後、イギリスのグラスコーで行われたインタビューで、20歳の若者は人々の熱狂を抑えるべく次のように話した。

「跳ぶたびに世界記録を破ると思われても困りますけど」

だが、時はすでに遅かった。彼こそがウサイン・ボルトの後継者だという話がすでに出ていたからだ。

「僕にボルトのようなすごいキャリアを築いてほしいと願う気持ちはわかるのですが」

BBCのインタビューで、彼はそう前置きした上で次のように続けた。

「僕としては、できるだけこの競技を代表するトップ選手でありたい。そのためにはとにかく高く跳ぶことだと思っています」

デュプランティスは世界のトップアスリートに名を連ねたばかりでなく、東京2020オリンピックの大スターの1人になると言われている。

彼は本当に次のボルトになれるのだろうか。

生まれながらの「鳥人」

ボルトさながらに、デュプランティスも幼いころから才能は際立っていた。自宅の裏庭で3歳の時に棒高跳を始めた。早いスタートが大きな利点となり、7歳にして記録を破り始めた。コーチ陣をまとめている両親は元アスリート。父親のグレッグは元棒高跳の選手で母親のヘレナ・ヘドランドはスウェーデンの元七種競技選手だ。デュプランティスは2人の兄、アンドレアスとアントワーヌに追いつこうと頑張った。

アンドレアスは棒高跳のスウェーデン代表として2009年の世界ユース選手権と2012年の世界ジュニア選手権に出場。もう一人のアントワーヌはポールをバットに持ち替え、野球の世界へ。2019年にメジャーリーグのニューヨーク・メッツにドラフト指名され入団している。

一方で、「悪ガキ」の弟は、棒高跳であっという間に兄を追い抜き、その特異な才能を若くして開花していく。7歳で自身として初の世界記録更新(3.86m)、10歳までに11歳と12歳の世界記録も破り、7歳以下から12歳以下、そしてユース(17歳以下)からシニアまでのすべての年齢別クラスで世界記録を樹立した。

10代前半の頃の成績はどうだったのか。「14、15、16歳の時はまあ、あまりうまくいきませんでした。まだ背が低かったので」とデュプランティスは苦笑したが、Olympic Channelが「羽の生えた」若者にインタビューした2017年にはすでに確信が芽生えていた。

弱冠18歳にして、夢ではなく、計画を立てていたのだ。

「今の目標は、東京2020オリンピックで金メダルを獲ることです。そりゃそうでしょう?」と彼は話した。

「いろんな世界大会でもっと記録を破りたい。世界記録を塗り替えたい」。そして将来、「史上最高の棒高跳選手として名を残したい」。

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ブブカ超え?

デュプランティスが6.17m、更に6.18mを続けて跳んだ姿は、あの偉大なセルゲイ・ブブカを彷彿とさせるものだった。ブブカは棒高跳の世界記録を1980年代、1990年代に17度も、そして多くの場合は1cmずつ更新している。

このスウェーデン系アメリカ人のスーパースターも、「ブブカの法則」に従うのだろうか。

「いったいどこまで跳べるのか?」というあからさまな質問に対して、明確に答えることはしなかった。限界を定めることもない。

世界新記録樹立後にBBCがポーランドでインタビューした際には、「先週は、何度もそのことを聞かれましたよ」と笑いながらも、「それは当然だと思います。世界記録を破ったら、次はいつだと聞きたくなるものだろうから」と続けた。

自分に限界を課したくない。すごく調子がいいし、自分のピークが20歳で終わるなんて思わないから。

本人以外は、もっと大っぴらに数字について語っている。ロンドン2012オリンピックの金メダリスト、ルノー・ラビレニは、フランスのレキップ紙から、 デュプランティス はいつか6.20m を超えると思うかと聞かれ、次のように答えた。

「もちろんあり得る。長い目で見て、それを超えられない理由が見当たらない」

6.18mをクリアした時の体とバーの距離から想像すれば、6.30mのクリアも不可能ではないようだ。デュプランティスは陸上競技に新たな興奮をもたらし、誰もが彼の次の偉業に期待を寄せている。

デュプランティスは、どこが特別なのか?

20歳で世界のトップに躍り出たこの棒高跳選手は、どこが他と違うのか。

181cm 、80kgという体格などフィジカル面をみれば、デュプランティスは特別な存在ではない。様々な要素が組み合わさる棒高跳という競技では、複数の能力をうまく融合させることが成功の鍵となる。つまりは、世界クラスの棒高跳選手になるには、トップスプリンター級のスピード、ウエイトリフティングのオリンピック選手並みの強靭さ、体操選手と同等の機敏さ、そしてフィギュアスケーターのような柔軟性が必要だということだ。

「母がいなければ、ここまで来られなかった」

デュプランティスの現在の成功は、明らかに家族のサポートと強い絆のおかげだ。

棒高跳びの選手だった父親も彼に大きな影響を及ぼしているが、母親とも強い絆で結ばれている。このことは、ポーランドで最初に世界新記録を樹立した時に母親に駆け寄ってハグしたことや、スコットランドで2度目の世界新を出した時の言葉からも明らかだ。

「母がいなければ、今の僕はない。これまでの3大会で母はずっと僕と一緒にいてくれ、コーチとしてだけでなく、むしろ母親の立場で寄り添ってくれたので、母親と息子としての絆を感じる時間を過ごせました」

「僕と母との小さな夢を出発点として、今何が起きているのか、そのすべてを消化するのは難しいけれど、母のようにずっと最初から僕のそばにいてくれた人たちと一緒に体験できているのがうれしいです」

母のヘレナさんは、息子が世界記録をいとも簡単に破る姿を、スタンドで誇らしく見守った。「スタンドで息子の姿を見つめながら、なんてすごいことかと思いました」とヘレナさん。「息子にとっては、難しいことではないように見えたのです。これは言っていいのかどうかわかりませんが、ブブカが記録を更新した時、こんなに簡単なことに見えたでしょうか」

母は息子を実生活でも様々にサポートし、競技に真剣に向き合えるようにプロへの転向や勝ち癖をつけられるよう手助けしてきた。

流れるようにしなやかなデュプランティスの跳躍
流れるようにしなやかなデュプランティスの跳躍
Photo by Jonathan Ferrey/Getty Images

より強くなるために

デュプランティスは、ルイジアナ州立大学で1年間学んだ後、2020年の年明けにプロに転向した。自ら「太った大学生のガキ」と呼ぶ体型に至らしめた生活スタイルからプロの世界覇者の生活スタイルへの転換をはかった。

アメリカ最南部で愛されているソウルフード、揚げ物を諦めるのは、「ルイジアナ州出身なのでかなり辛かった」と嘆きつつも、脂肪の少ない野菜中心の食生活を心がけている。

「モンドは本当は野菜が好きではないのです」と母、ヘレンさん。「お皿の端っこに野菜を寄せて残したがる子でした。それでも野菜を少しずつ取るようにしています」

スピード、トレーニング、食生活すべてが功を奏したが、特にデュプランティスが優れているのは、跳躍の様々な要素を1つのモーションにまとめる技術だ。

「僅か0.5秒のために5年のトレーニングだってできる」

デュプランティスが棒高跳の様々なフェーズ——助走、ポールの突っ込み、踏切、空中でのバーのクリアランス、着地——について話すのを聞いていると、まるで神秘的な体験の話を聞いているようだ。

スポンサーの1社が制作した、この素晴らしい動画の中で、「ジャンプには多くのエネルギーを注がなければならないけれど、最高のジャンプができた時というのは、何の苦労もなく、すっと流れるような動きでエネルギーのロスが全くないように感じる」と語っている。

リズム、感覚、筋肉が覚えている条件反射的なことを言葉で表現するのは容易なことではないが、それらが合わさって、独特な動きが生まれるという

「跳躍の動作全体が、最初の一歩から構成されていく」と彼はその跳び方について話す。

「弾けるように、パワフルに、その一歩を踏み出した後のことを説明するのは難しいのですが、とにかく大切なのは、リズムです。その感覚は頭の中に刻み込まれています。リズムが正しい時は、走っている時にもそれを感じることができます」

ポールを持って走り、そしてトップスピードに達したまさにその瞬間に、ポールが完璧な弧を描いてボックスに突き刺さるのを見れば、彼が「流れるような動き」という意味がわかる。

「跳躍全体が、ポールを突き刺す動作にかかっています。ポールがボックスのくぼみに突き当たり、その衝撃を感じた時に反応すればいいのです」

「バーを越えられるかどうかはすぐにわかるし、成功を確信した時にはリラックスした気分で着地までの時間を楽しめます。この僅かの瞬間のために生きているのです。この僅か0.5秒のために5年のトレーニングだってできるのです」

過去誰も達成したことのない高さまで飛べることを確信できる、この0.5秒の瞬間を、彼はすでに2度も味わっている。そしてこれから先も、こうした瞬間を味わいたいと明らかに願っている。

ボルトより偉大?

だがデュプランティスは、12年間にわたって陸上界に君臨してきた偉大な男の後継者に本当になれるのだろうか。

個性、カリスマ性、感性を兼ね備えたジャマイカの英雄は、最高のスポーツの舞台でその見事な才能を幾度も披露してきた。ボルトの後継者になれと言うのは、実にたいへんな要求だということをデュプランティス自身もわかっている。

「今の僕は、これまで思いも寄らなかったような立場にいます。陸上界のリーダーになることを期待されているということでしょうか? ですが、僕は棒高跳の選手にすぎないし、棒高跳は、実に変わったユニークな競技なのです」と彼はいう。

「棒高跳が大好きだから、注目が集まるのはうれしいことです。一瞬でも棒高跳の注目度を上げることができれば、それは夢が叶ったということです。そして、この夢を叶え続けるには、高く跳び続けることだと思います」

「それでも、この競技を代表する「絶対的王者」かと言われると、あまり大口を叩いてもいられません。とにかくすごいライバルがたくさんいますから」

取材:Olympic Channel