パートナーインタビュー:アシックス 日本代表選手団オフィシャルスポーツウェア、ボランティアユニフォーム開発 大切にしたのは「ユーザーファースト」 

2020東京オリンピック・パラリンピック室戦略企画チームの落合理子さんと山辺高大さん
2020東京オリンピック・パラリンピック室戦略企画チームの落合理子さんと山辺高大さん
1949年に創業した株式会社アシックスは、常にアスリートの傍らでスポーツに寄り添い、サポートに取り組んできた会社です。2020年2月21日(金)、東京2020大会の日本代表選手団オフィシャルスポーツウェアが発表されました。そのウェアの企画を手掛けた2020東京オリンピック・パラリンピック室戦略企画チームの山辺高大さんと、フィールドキャスト(大会スタッフ)・シティキャストの2種類のボランティアユニフォームを担当された落合理子さんに、アシックスのモノづくりの姿勢と東京2020大会のスポーツウェアに込めた思いを語っていただきました。
アシックスさんはボランティアの方々が着用するウェア、日本代表選手団が着用するウェアと大きくターゲットの異なるプロダクトを開発されました。製造するうえで大切にされたことを教えていただけますか。

2020東京オリンピック・パラリンピック室戦略企画チーム 落合理子(以下、落合)

「暑さ対策」「持続可能性」「多様性」という3つの軸をすえて開発を進めて参りました。2015年4月に東京2020ゴールドパートナーになってから、様々なキーワードをもとに社内でも検討を進めていきました。東京2020組織委員会からの「大会基本計画」という資料や、私たちがこれまで培ってきたアスリートサポートの経験、様々なご意見を参考にしつつ、一般の方とアスリート、性質は異なるもののどちらも「ユーザーファースト」で制作しようということになりました。

3つの柱ができあがっていく過程で、御社の中でどのようなやりとりがあったのでしょうか?

2020東京オリンピック・パラリンピック室戦略企画チーム 山辺高大(以下、山辺)

東京2020大会に関わるプロジェクトが立ち上がったのは約4年前です。キーマンになる人物が集まって、ボランティアユニフォームと日本代表選手団オフィシャルスポーツウェアそれぞれどんな機能が求められているのか、意見を出し合いました。ボランティアと選手の着用シーンを想定しそれぞれで議論を重ねていくと、「結局大切にするべき軸は同じなのではないか?」という考えにまとまったんです。基本となる軸が決まった上で、選手へのヒアリングを重ね、アンケートも行い、より深く情報を集めていきました。契約選手や協会の方々にご協力いただき、合宿などに伺って意見をお聞きしました。

落合

ボランティアユニフォームについては社内に知見があまりなかったこともあり、誰に聞けばよいのか、というところから始まりました。東京マラソンのボランティア経験者の方にヒアリングしたり、大学生とのワークショップを行って意見を聞いたり手探りで動いていったように思います。

「大会の顔」「大会の象徴」であるボランティアの方々のユニフォーム
「大会の顔」「大会の象徴」であるボランティアの方々のユニフォーム
ボランティアユニフォームの開発について詳しくお尋ねします。改めて特にこだわった点、苦労された点を教えていただけますか?

落合

パートナー企業になってから情報を集め始めて、2016年からプロダクトとして形にし始め、2017年から2019年で研究開発を進めていきました。ボランティアの方々は10日以上1日6~7時間活動されるということを伺っていましたので、大きなテーマとして暑さ対策をしなければならないと考えていました。同時に、着用される方がフィールドキャストで8万人、シティキャストで約3万人、総勢11万人以上にものぼりますので、体形や年齢、ジェンダー等への配慮も必要不可欠です。皆さんに似合うとともに暑さを少しでも軽減できるウェアの制作に注力しました。

研究開発の過程では、夏の炎天下でのテストも欠かせませんでした。屋外でのテストでは、開発したウェアやシューズを実際に着用して動き、どのような温度の変化があるかリサーチしていきました。2016年から夏に毎年行い、3回の実験を経ています。1日6~7時間、真夏の屋外で活動したらどうなるのか、私たちも汗だくになって実験を行いました。ヘリテッジゾーンを象徴する場所として外苑前、ベイゾーンとしてお台場の2つの環境下で実施していたのですが、両者の違いも実感できて非常に有益な情報が手に入ったと思っています。通気性をキーワードに検討し、新規素材の開発や裾のスリット構造などにつながりました。

東京2020組織委員会とのお話の中で印象的だったのは、ボランティアの皆さんは「大会の顔」「大会の象徴」だという言葉でした。世界中のお客様をお迎えするとともに、大会を彩る大切なスタッフだと繰り返しお話いただき、開発チームの意識も高まっていったように思います。開発の最終段階では、多様性を踏まえ様々な方からアドバイスを頂き、新しい知見も加えていただきました。ボランティアの皆さんの笑顔や立ち振る舞いをサポートするウェアでもあると思っています。

東京2020大会 日本代表選手団オフィシャルスポーツウェア発表会
日本代表選手団オフィシャルスポーツウェアのお話も伺っていきたいと思います。改めて特にこだわった点、苦労された点を教えていただけますか?

山辺

日本代表選手団ウェアの主な着用シーンは、大会期間中の選手村の生活や表彰式の際に着用されるものであり、選手は外気温が30度以上の屋外活動、そして空調が効いている室内活動まで、着用環境は変化していきます。そのため、暑さ対策を考えたアイテム開発に重点を置きながらも、室内で快適に過ごせるアイテム開発やアイテム選定を同時に行う必要がありました。例えば、体調管理の面でクーラーによる冷えを嫌う選手もいらっしゃって、夏の暑い環境でウインドブレーカーが必要なの? と思われるかもしれませんが、選手目線では必要なアイテムです。また、リラックスという観点も重要だと思います。今までTシャツ素材は吸汗性や速乾性に優れたポリエステル100%の素材を主に選んできましたが、選手村での部屋でくつろぐ時間には綿の肌触りの方がリラックスできるという声があり、そのポリエステル素材で綿の風合いに近いTシャツをラインナップに加えています。

暑さ対策については何が効果的なのかをアシックススポーツ工学研究所を中心に様々な検討を重ねました。検討を進めていく中で、通気性を高めることが効果があると考え、アシックススポーツ工学研究所で立証されたボディサーモマッピングに基づいて、衣服内温度が高くなり汗の量が多くなる場所に通気性に優れたメッシュ素材を配置しました。ウェアを見ていただくと、メッシュの配置やデザインが特徴的なことがお分かりいただけると思います。脇や肩の部分、袖の内側、全体にわたって配置されていますが、穴の大きさがそれぞれ違います。

メッシュの配置が特徴的、穴の大きさも場所によって変えられている
メッシュの配置が特徴的、穴の大きさも場所によって変えられている

通気性を高めることを単純に考えれば、メッシュ素材をジャケット全体に使用したデザインにすればいい、となりますが、自国開催のオリンピック・パラリンピックで、日本の代表選手たちが着る「日本代表選手団のオフィシャルスポーツウェア」という未来に間違いなく残っていく存在は非常に大きいポイントで、ホスト国のウェアということが、開発側にとっても大きなプレッシャーでした。記念すべき表彰式にも着用されるものですし、美しさ・強さと機能をいかに両立させることができるか、いかにカッコよくそういった技術を形にできるかが求められていたように思います。様々な方にご意見いただき、いくつものサンプルを作成し検討をしました。初期デザイン段階では「選手団としての強さが感じられない」というご意見もあり、開発の過程で「強さとはなんだ?」という根源的なことを考え、プロジェクトメンバーで悩んだ時期がありました。

鮮やかな「サンライズレッド」 美しさ・強さと機能を両立させて代表らしく
鮮やかな「サンライズレッド」 美しさ・強さと機能を両立させて代表らしく
「強さ」をウェアで表現するというのはかなり難しいことだと思うのですが。

山辺

日本代表とはこうあるべきではないか、こうあってほしい、2020年に自国の日本代表選手団がどのように世界に映るべきなのかというのを改めて考えるきっかけになりました。「強さ」を表現するためにメッシュ配置を含めデザインを変更し、カラーも朝日が昇る力強さをイメージした鮮やかな「サンライズレッド」を前面に押し出しました。「強さ」とは何なのか、プロジェクトメンバーで考え抜きこのデザインやカラーに到達しました。できあがったウェアは日本代表選手団の存在感をさらに強め、際立たせ、選手たちが日本代表として誇りを感じられるものになったと確信しています。

すごくカッコいいと思います。

山辺

東京2020大会では新しい試みとして「アシックスリボーンウェアプロジェクト」という企画を実施しています。「持続可能性」の考え方をもとにウェアからウェアへと、日本の技術力を活用しながら、一般の方のスポーツウェアを日本代表選手団オフィシャルスポーツウェアに生まれ変わらせようという取り組みです。東京2020大会を自分ごと化してほしい、もっと身近に感じてほしいという思いで始めたプロジェクトです。

皆さんに本当に思い出の詰まったウェアをたくさん持ってきていただきました。「昔、全国大会に出たときのウェアです」「部活で頑張った時の思い出のウェアです」など一つ一つストーリーがあって、心から日本代表選手に託したいと思っていらっしゃって、とてもうれしかったです。盛り上げる、機運醸成的な意味でも成功した企画だったと思っています。託していただいた思いを、次は日本代表選手団にしっかり伝えなければ、と思っています。スポーツウェアができました、ということだけではなく、そういう思いが込められていますと伝えることも私たちの使命だと考えています。プレッシャーにならない程度にですが(笑)

一般の方のスポーツウェアが生まれ変わった。選手の皆さんへの思いがこめられている
一般の方のスポーツウェアが生まれ変わった。選手の皆さんへの思いがこめられている
東京2020ゴールドパートナーとしての活動の中で、印象的なエピソードは?

落合

大学生の方々とのワークショップが印象に残っていますね。2017年12月に東京2020組織委員会の協力のもと、全国の大学生50人と「学生が考える、東京2020大会に向けたボランティアユニフォーム」ワークショップをアシックスの神戸本社で開催しました。学生ならではの視点で「自分が着たいボランティアウェアとは」をテーマにグループワークを実施し、様々な意見交換を行いました。そこでは暑さ対策が問題では? といった問題提起や、スポーツウェアとしての機能性とは? といった大切な発言もあり、のちに私たちが大切にする3つの軸を形作る際のヒントになりました。終わった後のアンケートに、「関西にいるので東京2020大会には全然ピンときていなかったけれども、このワークショップが考えるよいきっかけになりました」と書いてあり、それぞれの2020年を想像していただけたんだなと実感でき、よい経験になりました。

よい気づきになったという学生さんとのワークショップ
よい気づきになったという学生さんとのワークショップ

山辺

私の方は、特にパラリンピアン、障がい者アスリートの方々とのやりとりの中で得た気づきが印象に残っています。アシックスとしてパラリンピアンへ製品開発を行うのはリオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック(リオ2016大会)からでした。何もわからない状態であったため、各競技団体をまわって採寸を通しながらヒアリングをしていきました。私の気づきの一つは、オリンピアンとパラリンピアンのスポーツに対する取り組み方、スポーツウェアやシューズに対する考え方など、マインドは何も変わらない。考えすぎていたのはこちらだったんだな、ということでした。特別な何かを求めているわけではなく、「みんなと同じでいいんです」と言われたのがとても印象に残っています。採寸活動で様々なパラリンピアンの方と出会うことで、この方にはこのサポートが必要なんだろうな、ということが自分も含め採寸に関わったアシックスメンバーが自然と気づき始める。そうすると自然に具体的なサポートができるようになる。もちろん足りない部分もまだまだありますが、意識は大きく変わったと思っています。

平昌2018冬季オリンピック・パラリンピック(平昌2018冬季大会)では車いす専用シルエットを製作したのですが、実は、車いすに座った時にベストなシルエットになるようにパターンを変えています。それがカッコいい、につながるわけです。通常のものだとだぶつきやしわが出たりする、わざとサイズを上げて足を隠していたり、その結果、ウェアの着心地も悪くなるし見た目もあまりよろしくない。「カッコよく見えるウェアを着たい。」選手ヒアリングで得たシンプルなこのコメントは、当たり前ですが選手のモチベーションを高める最重要ポイントだと思っています。障がい者アスリートの皆さんとコミュニケーションできたことでスポーツウェアに本当に求められているのは何かを考えるようになりました。自分たちの考え方が変わった瞬間だと思っています。リオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック(リオ2016大会)でできたこと、平昌2018冬季大会でできたこと、東京2020大会でできること、おそらくこの先もチャレンジを続けていくことになりますが、今の段階でできうるすべてを注ぎ込んで、アスリートの意見をしっかり入れたウェアにできたと思っています。

改めて東京2020大会への思いをお聞かせください。

落合

アシックスが東京2020ゴールドパートナーになったきっかけは、創業哲学と近代オリンピックの理念が一致しているということがありました。青少年の育成にスポーツというものが重要な役目を果たすということをクーベルタン男爵も言っているわけですが、アシックスの創業者である鬼塚喜八郎も発言しています。そもそもそういったスポーツの価値を見出すことを理念に掲げて出発した会社ですので、東京2020大会への協賛を決めたという経緯がありました。まずは私たちの作るプロダクトで大会の成功に貢献していきたいですし、これをきっかけにアスリートの輝きに注目が集まり、それによって多くの方々にスポーツっていいなと思っていただけるとうれしいなと思います。

山辺

リオ2016大会で現地に行って、オリンピックを生で見たときに、自分自身が変わったように思うくらいインパクトがありました。純粋にすごい大会だと思ったし、これが東京で開催されるのかと思った時、いい意味でぞっとしたのを覚えています。東京2020大会を経験することによって、スポーツの可能性が改めて考えられると思いますし、様々な人々が東京にやってくることで新しい価値観が生まれるきっかけになると思います。東京2020大会があったからこそ自分がこうなっているんだというような大切な年になってほしいですし、そこにアシックスとしても寄り添い、私たちにできることを大会まで一つ一つ果たしていきたいと思っています。

多くの方々にスポーツっていいなと思っていただけるとうれしい、そこに寄り添っていきたい
多くの方々にスポーツっていいなと思っていただけるとうれしい、そこに寄り添っていきたい
どこまでも「使っていただく方ファースト」を貫くアシックス皆さまの姿勢に心動かされるインタビューとなりました。着用される方の「笑顔」や「快適さ」を願いながら一つひとつ開発を進めていった道のりの先に、素晴らしいプロダクトが完成されたのだと思います。心と技術が余すところなく注ぎ込まれたスポーツウェアやユニフォームが、東京を、そして日本中を彩る瞬間がもうすぐやってきます。東京2020大会が改めて「スポーツの価値」を考えるきっかけとなり、そして一人でも多くの方の価値観を良い方向に変える舞台になっていってほしいと思います。