「東北の今を正しく知ってもらえるきっかけに」 東北復興クリエイティブディレクター・箭内道彦さんインタビュー

「東北復興」のクリエイティブディレクターを務める箭内道彦さん
「東北復興」のクリエイティブディレクターを務める箭内道彦さん

しあわせはこぶ旅 モッコが復興を歩む東北からTOKYOへ

東京2020 NIPPONフェスティバルの主催プログラムの一つ「東北復興」のクリエイティブディレクターを務める箭内道彦さん。東京1964オリンピックの年に福島県郡山市で生まれ、2015年に福島県クリエイティブディレクターに着任、ロックバンド猪苗代湖ズのメンバーでもあります。東北を元気づけるイベントを様々プロデュースしてきました。東北を愛する箭内さんが東京2020大会のイベントで日本や世界の皆さんに伝えたい東北の姿やメッセージとは。思いを語っていただきました。

東北の人たちにも東京2020大会が必要と感じてもらえるように

「東北復興」プログラムのクリエイティブディレクターを引き受けられたきっかけは?

2020年、東京にオリンピック、パラリンピックがやってくると決まった時に、東北の僕の仲間たちは不安に思ったり悔しさを感じたり、そんな場合じゃないんじゃないかと口々に言っていました。大会があることで復興が遅れてはいけない、そう言っている人が多かったのは確かです。そんな中で、開催の決定は動かない、という以上は、少しでもいい大会になってほしいと思いますし、東北をちゃんと知ってもらえる機会だと思いましたので、「東北復興」というテーマであれば参加をさせていただきたいと思って決めました。

今まで手掛けてこられたプロジェクトとどんな違いがありますか。

一つは世界が注目してくれている2020年、東京、日本であるということですね。オリンピックやパラリンピックを楽しみにしている方もいれば、無関心な方もいる。賛否両論の中での開催であるということ、その中でどういい形を作っていけるか。「復興オリンピック」を掲げて招致したのであれば、あーこういうことだったんだと思ってもらえるようにしたいですね。

プロジェクト「しあわせはこぶ旅」のアイデアはどんな背景から生まれましたか。

東北から東京へというテーマですが、東京2020オリンピック・パラリンピックということですから東京で開催される、その中で「復興オリンピック」がちゃんと機能するように、東北のメッセージや東北の幸や文化を東京に運んでいきたいなと思います。その旅の途中途中でいろんな出会いがあって、東北の人たちにこの大会が自分たちにとって少しでも必要なものと感じてもらえるような企画になればと思いました。
大きなシンボルとして10mを超えるモッコという人形を考えました。物語を書いてくれた又吉直樹さんが「つながり人形」って呼ぶのはどうでしょうかと。操演の手綱でもつながっていますし、人と人をつないでいく存在であってほしいと思うので、ぜひぜひその名前をくださいと。最初は10mほど大きくなくていいんじゃないかという声もあったんですけど、東北の皆さんと一緒にちょっと難しいかもしれないちょっと無理かもしれないということをちゃんと形にして動かしていく、それが復興と重なる気がして。本当は20m20cmにしたかったんですが、それでも体育館の天井くらいまである大きいモッコが旅をしたことで、この前うちの街に来ていたあのでかいあいつが東京でのびのび動いているよと、親戚みたいに思ってくれたらとてもうれしいなと思って。

東北から東京へ モッコと一緒に「しあわせはこぶ旅」
東北から東京へ モッコと一緒に「しあわせはこぶ旅」
大きなシンボルとして10mを超えるモッコという人形を製作
大きなシンボルとして10mを超えるモッコという人形を製作

又吉さんの物語が「モッコ」の企画に命を吹き込んだ

家族みたいな存在でもありますね。又吉さんが書かれた物語の印象はいかがでしたか。

まず宮藤官九郎さんが「モッコ」という名前をつけてくださって(お調子者を表す宮城の方言「おだづもっこ」の「もっこ」の語源「持ち籠」から、みんなの思いを籠に集めて旅する存在として)、デザインについて東北の子どもたちとワークショップをしながら進めていて、物語について思ったときに、僕は又吉さんに強いシンパシーを感じたんですよね。関西の方ですけど、ちょっと口数が少なめで心の中には熱いものを持っていたり深い優しさを抱いているところが東北の人たちの感じとつながるなって。それで東京藝術大学の僕の授業のゲスト講師で来てくださった時に学生たちの目の前でモッコの物語を書いてほしいとお願いしたんです。モッコってどういう性格なんだろう、コンビニに行ったら何買うんだろう、好きな音楽は? とかモッコのプロフィールを又吉さんと話しました。お忙しい中、1カ月で書いてくださった。みんながモッコを好きになるような素晴らしい物語ですよね。ご自分のことも重ねているようにも思いました。東北の人たちにとっても隣の家のおじさんと同じ感じだ、自分みたいだ、友達みたいだと思ってもらえると思います。

あったかいですね。

又吉さんのお人柄が出ていますよね。又吉さんの物語で、このプロジェクトに命が強く吹き込まれた、そういう気がしています。

東北の人たちにとって身近な存在であってほしい
東北の人たちにとって身近な存在であってほしい

人形製作の沢則行さん、ベースデザインの荒井良二さんらプロジェクトを応援してくださっているメンバーの皆さんとはどんなお話をされていますか。

共通するのは東北への強い思いですね。東北のことを、東北の今をみんなにもっと知ってもらえるきっかけを自分たちが作れるのであれば協力は惜しまない、と言ってくださっています。

すべて興味深いですが、中でも必見のイベントは?

全て必見ですね(笑) 「東北絆まつり」で2020年5月30日(土)に山形市にもうかがいますけれども、東京も含めて岩手、宮城、福島4カ所で行います。その地域の方に来てほしいですけれど、4つ全部見に来る方がたくさんいたらうれしいです。地域によって違いますし、旅が続いていく中でみんながいろんなことを共有したり成長したり変わっていく、深まっていく旅を感じてもらえたらと思いますので、一緒に旅してくれる方が1人でも多いととてもうれしいです。

「助けあう思いあう」東北からそういうメッセージを

2011年に起きたたいへんな地震と津波と原発事故で被災された東北の皆さんにとって「しあわせはこぶ旅」どういう意味があると思われますか。

全員に意味があるかというと、そうではない方や必要としない方もいらっしゃるとは思います。笑顔で頑張っていらっしゃる方やもう大丈夫だよって方、ありがとうって感謝を伝えたいっていう方、9年近くたってもまだまだたいへんでしんどさが増しているという方やこんなこと必要ないよという方もいらっしゃると思います。そんな中で行うイベントですので、東北に人が来てくれること、そして一部だとは思いますが、東北、福島には人が住んでいないんじゃないか、防護服を着て暮らしているんじゃないかと思っていらっしゃる海外の方に、東北の現在の姿を正しく伝えることができたらと思っています。

東北の現在の姿を海外に正しく伝えたい
東北の現在の姿を海外に正しく伝えたい

日本でも東京や他の地域にいると、東北の皆さんの本当の思いがわからないこともあります。そばで接していらっしゃる箭内さんはどんなふうに見て感じていらっしゃいますか。

東北といっても様々で一括りにすることはできないですし、今回のプロジェクトはそういう括り方をしないプロジェクトです。東北のもともと持っている素晴らしい文化、人柄、幸をともに感じられるようになればいいなと思います。もちろん大変なのは東北だけじゃなくて、その後もたくさんの災害が全国各地で世界の各地で起きています。9年経つ東北が今どんなふうに歩んでいるのか、その姿がその後に起きた災害などに対する希望になれたらと感じています。それは東北の人たちにとっても大きいことだと思いますね。人に助けてもらってばっかりだと逆にそれがしんどくなったり、居心地が悪くなってきたりということがあると思うんですよね。自分たちが今度は何に笑顔や元気を渡すことができるだろうか、選手に対してかもしれないし世界に対してかもしれないし、別な災害で復興を歩んでいるたいへんな方々に対してかもしれない。「助けあう思いあう」東北からそういうメッセージを送れるということもあると思います。お互い様です。

モッコのデザインを一緒に考えた子どもたちから触発されたことはありますか。

子どもたちはものすごいパワーがありますね。被災された東北の地域のお子さんたちは親御さんの苦労をずっと見てきたわけで、自分たちがこの街の役に立ちたい、みんなを助けたいという気持ちが強いんですよね。子どもたちって誰かを好きになったりけんかしたりやんちゃしたりっていうのが大事な時なのに、大人たちが未来や希望を背負わせすぎているんじゃないかなって心配になる時があったんですけど、ワークショップで出会ったみんなを見てると、最初の何分間は東北の気質で様子を見たりしているんですけど、絵の具を渡されて何書いてもいいよって言われたら、大きい紙を前にしてばーんとエネルギーが放出されていく、表出していくというかそれがすごくいいなぁと思えたし、子どもたちがワークショップでそういう体験をできたということがすでにレガシーになると感じました。体験してくれた子どもが大人になっていく中で、得たものって絶対、確実に何かになるって感じました。

オリンピック・パラリンピックというスポーツイベントとNIPPONフェスティバル、東北に関する文化的なイベントが同時に開催されることについてはいかがですか。

「オリンピック憲章」というのを教えていただいて、オリンピックというのはもともとスポーツだけではなく文化の祭典でもあると改めて伺って、僕は「人間の祭典」だと思いました。人間ってこんなに速く走れるんだよ、人間って競い合うとこんなに素晴らしい感動を届けることができるんだよと。そういう意味では人間ってこんなに大きな人形を作ってみんなで動かしてすごく美しい時間を作ることができるんだよと。人間のできることの限界を超えていく、自己ベストを超える、そこに全部つながっているって思うので、それが開催の前までは文化で機運が醸成されていって、開幕したらスポーツでばーんと形としてみんなの目の前で繰り広げられるというのはすごく自然なことだなと思いますね。

東北は大自然やおいしいものとともに、人が名産

野球・ソフトボールは東北で開幕します。外国からも日本からも多くの方が東北に来てくださると思います。どんなふうに東北を楽しんでもらいたいですか。

まず食べ物がおいしいです。自然も豊かですし何よりも人があったかいんですよね、ちょっと遠慮がちな人もいるかもしれないですけども。いつも僕が思うことは、東北の大自然やおいしいものとともに、人が名産だということ。だから東北に来てたくさん友達になってもらっていろんな話をしてもらいたいです。東北でこうやってみんながいきいきと暮らしているんだということを全国の人、世界の人が知ってくれたら、大きなつながりが新しく生まれる機会になると思っています。

最後に東京2020大会に期待することを教えていただけますか。

東京でのオリンピック・パラリンピックは2度目です。僕は1964年の4月10日生まれで、ぴったり半年後にオリンピックが開幕しました。2度目の大会というのはロンドン2012大会もそうでしたが、都市がどう成熟しているか比較されます。レガシーとしてプレゼンテーションされる、そこに期待をしていますし、もしも2度目のオリンピック・パラリンピックで成熟が足りなかったとしたら、足りなかったという反省が逆に大きなレガシーになるだろうし、しなくてはいけないのだと、とも思っています。

「東北は人が名産。「人間の祭典」をきっかけにぜひ東北に来てほしい」と箭内さん
「東北は人が名産。「人間の祭典」をきっかけにぜひ東北に来てほしい」と箭内さん

東京2020 NIPPON フェスティバルとは

世界の注目が日本・東京に集まる2020年3月下旬から9月にかけて実施する、東京2020大会の公式文化プログラムです。日本が誇る文化を国内外に強く発信するとともに、共生社会の実現を目指して多様な人々の参加や交流を生み出すことや、文化・芸術活動を通して多くの人々が東京2020大会へ参加できる機会をつくり、大会に向けて期待感を高めることを目的としています。

東京2020 NIPPON フェスティバル