パラリンピックをきっかけに始めようって思ってくれたらうれしい
ずっと破れなかった壁をついに破った
「念願の60キロを挙げることができたことは、自分をほめたいです。やっとかーって」
高校2年生、16歳のパワーリフター森崎可林選手は、2019年9月27日(金)に行われた東京2020パラリンピックのテストイベント「READY STEADY TOKYO-パワーリフティング」(共催:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会/(特非)日本パラパワーリフティング連盟)の女子67kg級で自身の日本記録を上回る60キロを成功させ、あどけなさの残る笑顔でそう話しました。
2019年の世界大会でも2回失敗していた60キロ。ずっと破れなかった60キロ台への壁を東京2020パラリンピック競技大会会場の東京国際フォーラムでついに破りました。自己ベスト更新。表情を緩ませながら、「うれしかった」と語りました。
それでも目標だった63キロは、挑戦したものの挙げられず。「筋力的にはまだまだ行ける感じでしたし、「67キロは挙げられる」とコーチとも話していたんですが、誰かに止められたみたいに腕にストップがかかった。練習でも挙げたことがない重量に対する気持ちの準備ができていなかった。つぶれるっていう一番してはいけない失敗をしたので、もう一人の自分が怒っています」と悔しさもにじませました。
障がいを理由にチャレンジすることを怖がらず、1回やってみてほしい
森崎選手は、生後3カ月で脊髄硬膜動静脈瘻(せきずいこうまくどうじょうみゃくろう)という病気を患い、脚に障がいを持ちました。小さい頃から水泳をやっていたことで、2017年、中学3年生のときにスポーツ庁が取り組んでいるアスリート発掘プロジェクト「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト(J-STARプロジェクト)」に参加したことが、パワーリフティングとの出会いでした。
「それまで全然興味がなかったけど、やってみたら一瞬で引き込まれてしまった」
水泳から転向し、本格的に競技としてスタート。20キロから始め、わずか3カ月で国内の日本一を決める大会にデビューし30キロ台を成功させました。そこからぐんぐん重量を上げ、競技を始めて1年も満たない間に日本記録の47キロ、初めて出場した国際大会(北九州で開催)で50キロに成功し、日本記録を更新し続けています。
パワーリフティングの面白さについて聞いてみると、「魅力ですか? やばいやばい、多すぎて語りきれない」と笑いながらも、「今まで挙がらなかったものが挙がる。それをどんどん自分の目や自分の体で感じて自信につなげていくっていうのが一番楽しいところ。筋肉を使うっていうのが楽しい。スパーンと挙がりきったとき、スッキリ、スカッとする」と目を輝かせました。
今まで挙がらなかったものが挙がる、自信につなげていくのが楽しい
パワーリフティングは世界的には人気がありますが、日本ではまだ競技人口が少なく、10代の選手は10人以下で女子の強化選手は森崎選手だけという状況。
「(選手は)お姉ちゃん、お兄ちゃん、お父さん、お母さんといった感じでみんな年上なので、同年代の選手が一人、いやもっともっと増えてくれたら共通の話題ができるのでうれしいです。友達がほしいですし、ライバルの存在もほしいです」と森崎選手は言います。
東京2020パラリンピックは、身近でテレビ放送もあり、パワーリフティングの魅力を日本はもとより世界中に広く発信し、「はまってもらう」大きなチャンス。その大舞台で森崎選手らが頑張ることが、同じように障がいを持つ人たちへの勇気になり、社会やスポーツ、競技への一歩を踏み出すきっかけになると思いをはせています。
「東京でパラリンピックが行われることは日本にとっても、私たち、パラパワーリフティングの選手にとっても大きいことです。私をきっかけに始めようって思ってくれる人がいたらほんとにうれしいですが、何がきっかけでも障がいを理由にチャレンジすることを怖がらず、とにかく1回やってみてほしいと思います。(日本パラ・パワーリフティング)連盟に聞いてもらったら体験イベントや練習の予定もわかります。ぜひ見に来てください。どんな形でもウエルカムです」
「必ず100キロは挙げます」
森崎選手自身にとって、東京2020パラリンピックは、パリ2024パラリンピックやその先の未来へのステップ。出場するには標準記録の70キロを突破することなどクリアしなければならない条件はありますが、
「母国開催は一生に一度のことかもしれないので大事だと思っています。緑がありきれいで、ウォームアップ場など明るい光が入ってきて暗い気持ちにならずにいられるこの会場なら素晴らしい大会ができると思うので、楽しみです。国際大会に出れば、友達もたくさん増える。いっぱい友達ができて、異文化交流ができるのでそれも楽しい。東京2020大会には何らかの形で必ず関わりたいと思います
初めて見て「カッコいい」とあこがれた女子55kg級の山本恵理選手と一緒に、東京2020パラリンピックに出場することを夢見ています。
「必ず100キロは挙げます。絶対挙げます。あと40キロ頑張ります」
現在の女子67kg級の世界記録(シニア)、タン・ユージャオ選手(中国)が出した140.5キロについても聞いてみると、目をきりっとさせ、「あの人にできて自分にできないことはないはず」と強く言い切りました。
世界記録は140.5キロ。あの人にできて自分にできないことはない
パワーリフティング競技について
1964年の東京パラリンピックから正式種目になり、パラリンピックでは、台上に仰向けに横たわった状態からバーベルを押し上げるベンチプレス競技が行われている。東京2020大会では男女各10階級が実施される予定。試技は一人1回ずつ順番に行い、3回の試技で最も重いバーベルを挙上した選手が勝者となる。試合は体重別で、男女各10階級に分かれるが、下肢の一部を切断している選手は、切断の範囲に応じて選手自身の体重に一定の重さを加算した重量で分類される。